第46話



 ヨウとサイがアリティアの自室を訪れると、彼女はレイチェルと共にテイクアウトの中華を食べている所だった。

 アリティアはチラリとこちらに視線を寄越すと、すぐに視線を手元の中華に目を落とした。不器用に箸を使い、麺を持ち上げて口へと運ぶ。

「あら? どうしたの?」

 朗らかに微笑むレイチェルは、紙ナプキンで口元を拭うと、箸を置いてこちらに体を向けた。

「あの……」

 サイは言い淀んだ。メルメルの前ではあれほど元気だったが、その元気もこの扉を開けるまでだった。サイはアリティアから放つ冷気のような気配に当てられ、氷像よろしく固まってしまっていた。

「あの、一言、アリティア先輩に言いたいことがあってきました」

 沈黙が流れるまま放っておく訳にもいかず、ヨウがサイの代わりに口を開いた。

「何よ?」

 箸を止めたアリティアが、顔だけをこちらに向けた。

 改めて向き合うと、燃えるように赤い髪のアリティアは美しい女性だと思う。ヨウは、常々アリティアと自分の実力を推し量ってしまう。先日の動きから、アリティアはヨウが思っている以上に戦闘に長けているように思える。食事をしてはいるが、彼女に隙は無い。

 探るようなヨウの視線を感じているのだろう、アリティアは抜け目なくこちらとサイを見つめている。

「ねえねえ、ジジちゃん。ヨウ君も、もっとリラックスしたら? サイ君だって、二人がそんな調子じゃ、話をすることも出来ないじゃない」

 この部屋にいる唯一のペースメーカーであるレイチェルが、ポンッと手を叩いて提案する。彼女の言葉に気を削がれたのだろう、アリティアは深い溜息をついた。面倒くさそうに深く座り直した。

「あの、アリティア先輩、先ほどは失礼しました! 明日から、掃除も頑張ります!」

「ん? ああ……まあ、今後もよろしくお願いね」

 アリティアは素っ気なく言うと、もう話は終わりとばかりに手を振って、再び食事を再開した。レイチェルはそんなアリティアを見て小さく肩を竦めると、こちらを見て「またね」と手を振った。

 ヨウとサイはアリティアとレイチェルに頭を下げ、部屋を後にした。



 ついに光輪祭二回戦が開幕した。

 一回戦から約二週間たったが、熱気は前回を凌ぐ勢いだった。

 現在の合計点は、一位がブルーレイク・ロッジで890点。二位がホワイトマウンテン・ロッジで810点。三位がレッドストーン・ロッジで630点。四位がブラックウッド・ロッジで320点。

 数値だけ見ても、ブラックウッド・ロッジは大敗を喫していた。一回戦の内容では、リアクターの一人少ないブラックウッド・ロッジが他寮から集中砲火を浴び、ポイントをごっそりと持って行かれた形だ。


 我らがブルーレイク! 絶対無敵! 絶対優勝!


 レッドストーン! 逆転逆転! 大逆転!


 ブラックウッド! 真価を見せろ!


 ホワイトマウンテン! 今年こそ優勝!


 空から皆の声援が降り注いでくる。

 ヨウ達光輪祭出場選手は、ブラックウッドに訪れていた。

 鬱蒼とした木々の生い茂る森。かつて、魔人戦争の折に強大な力のぶつかり合いで、ローゼンティーナの周辺は他の地域にとは全く違う生態系、気候、地形を有することになった。

 ブラックウッド・ロッジの名称にも使われているブラックウッドは、一年を通して温暖で、湿度の高い森であった。早朝と夜は深い霧に覆われ、アタラなどの生き物が徘徊し、侵入者を排除している。

 ブラックウッド・ロッジの代表選手は、森の手前で円陣を組んでいた。その中にはヨウとサイ、シジマ、レイチェルの姿はあったが、やはりと言うべきか、アリティアの姿はなかった。

「良いか? 今回の目標は、一秒でも長く生き残ることだ! 分かったな?」

 ヨウ達に向かって言うのは、アリティアと同じ生徒会メンバーであるニニギ・ウォーホルだ。角刈りの頭に黒く四角張った顔。身長はヨウよりも頭一つは大きい。見るからに屈強で彼は、腕の太さはサイの腰回りほどありそうだった。しかし、見た目とは裏腹に、彼の表情は優しく、青く輝く瞳には英知の輝きが見て取れる。

「ごめんねー、ニニギ君。ジジちゃんは、やっぱり何処かに行っちゃって……」

 レイチェルが申し訳なさそうにニニギに頭を下げる。ニニギはレイチェルを見て、「いえ……」と言葉に詰まりながらも深刻そうに頷く。ニニギを中心に取り囲む他のメンバーは、あからさまに溜息をつく者もいる。表だって文句を言わないのは、その言葉がアリティアの耳に入ることを恐れているからだろう。もっとも、ヨウ達を見る皆の視線は、今まで以上に厳しいものだったが。

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