第43話

 舌が痺れるような濃い味のソースを味わいながら、由羽はハンバーガーをゆっくりと嚥下する。

「で? 何よ、大変な事って?」

「それがですね! ギガントバーガーで、新作が出たんですよ! その名も、テラギガントバーガー! 見てください! このボリューム! 一つ食べただけで、一日の消費カロリーを遙かに超越して、数日間は胃もたれが続きそうな輝かしいフォルムを!」

 美和はやおら紙袋からテラギガントバーガーなるものを取り出した。確かに、そのボリュームは常軌を逸していた。美和の手が小さいこともあるだろうが、両手でないと持てないサイズだ。包み紙から顔を覗かせているパンズは黄金色に輝いており、その下にあるのは、こんがり焼けたハンバーグが四枚も乗っている。申し訳程度に野菜が挟んであるが、その量は肉に比べるとあまりにも少ない。

「じゃあ、いただきま~す!」

 唖然とする由羽をよそに、美和はハンバーガーに齧り付いた。

「ちょっと! 美和! ずるいわよ! そっちを私に寄越しなさいよ!」

「嫌です~! だって、私が言おうとした時、お姉様は黙れって言ったじゃないですか~」

 由羽の手を逃れ、美和は歩きながらテラギガントバーガーに食らいついていく。細い体からは想像もできない速さで、美和はハンバーガーを胃袋に納めていく。

「アンタね~~~!」

 由羽が叫んだ所で、美和が思い出したように足を止めた。

「あっ、そうそう、お姉様、忘れていました」

 モグモグとハンバーガーを噛みながら、美和は事も無げに続ける。

「街でユーラミリア君と会いましたよ」

「え?」

 美和の口から出た意外な名前に、由羽は動きを止めた。

「まさか、こっちの存在はばれてないでしょうね?」

 由羽の表情は険しくなり、手にしたハンバーガーが音を立てて握りつぶされた。

「存在ですか? ん~」

 美和はハンバーガーを全て口に納めると、ほんの数噛みで嚥下した。

「ユーラミリア君の方から私に声を掛けてきたんですよ。『色々大変そうですね。せいぜい、頑張ってくださいって』。私は、はい、ありがとうございます、と答えましたけど」

「ユラ! あの子!」

 ハンバーガーを床に投げ捨てた由羽は、部屋から出て行こうとした所を美和に止められた。

「お姉様! まってください!」

「待てないわよ! ユラが来ているのよ? アイツがいるって事は傀儡がいるって事よ! やっぱり、今回の事は傀儡も絡んでいるんだわ!」

「でも、本当にユーラミリア君は明鏡を裏切ったんですか?」

「裏切ったわよ! あの子に、何人の御剱繰者がやられたと思っているのよ! 今度こそ、殺してやるわ!」

 ドアノブに手を掛けた由羽に、また美和がストップを掛ける。

「待ってください、お姉様!」

「何よ! 美和! あなたが何を言おうとも、私はユラを殺すわ! 私達の存在が、ローゼンティーナに知れたとしてもね!」

「違うんです!」

「何が違うのよ!」

「ユーラミリア君を追うのも良いですけど、せめて服を着てください!」

「…………」

 由羽は沈めるように深呼吸をすると、自分の体を見下ろした。ピンク色のフリルの付いたブラジャーに、同色のショーツのみ。窓から差し込む日差しに当てられ、白い肌が磁気のように白く輝いていた。

「…………もう、良いわ。どうせ、ユラが見つかるわけ無いしね」

「最終的には、出てくると思いますよ。そういう性格の彼ですから」

「そうね」

 由羽はベッドに横になると、ニコニコと笑っている美和に命じた。

「美和、すぐにテラギガントバーガーを買ってきて。それと、オレンジシェイクね」

「はいです♪」

 美和は跳ねるように答えると、文字通り跳ねるようにして部屋から出て行った。

 再び一人になった部屋で、由羽は天井を見つめた。

 このローゼンティーナにヨウの他にユラまで来ている。

 ユーラミリア・バーソロミュー・ロゼ。三千世界、絶光と並ぶ、外伝最後の一振り、『輪廻転生』を持つ御剱繰者。彼は、輪廻転生を手にすると、明鏡から離反し傀儡へと下った。そして、傀儡の一員となって事あるごとに明鏡と対立してきた。その彼がここに来たと言うことは、これから起こるであろう魔神機の一件に、絡んでいると言うことだ。絡んでいるどころではない、もしかすると、ユラ自らが魔神機を復活させるのかも知れない。

「…………ックソ」

 毒づかずにはいられない。ユラが絡んでいるとすれば、状況は更に悪くなる。ただでさえ生存ルートがないというのに更に絶望的な状況に追い込まれている。

「ヨウ、私、どうすればいい……?」

 全てを忘れ、ヨウの元へ駆け寄りたい。彼に話せば、何か変わるかも知れない。力が無くても、ヨウはこの状況を、最悪の状況を変える光を持っているように思えた。

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