第7話 知らない走らない

ラナイは言った。僕はなにも知らないんだと。彼は自分のことが好きではなかった。嫌いではない、好きにならないのだ。



「こんにちは、ラナイ」


「こんにちは、レル」



ラナイの友だちにレルがいる。彼女は今日も元気よく街をかけていく。ラナイは目で追いかける、なにかが足りないような気がするが思い出せない。彼はやはり知らないのだ。レルが走っていく、そのあとを決して走らない彼は、彼女を見ては首をひねる。僕が気にすることじゃない、少し足りないからといって大きな変化はないんだ。こだわりなんて意味がない。壊れて鳴らなくなった鐘が別の何かに生まれ変わるように、より役に立つようにより周りに合うように作り変えられる。なにができて、できないのか。できないのではなくてしないのか。僕には分からない、知らない、走らない、割らない、売らない、折らない、切らない、蹴らない、足らない、盗らない、鳴らない、乗らない、減らない、やらない、僕にはいらない。



「こんにちは、ラナイ。今日、晴れればいいね」


「こんにちは、レバーさん。そうですね」



今日は雨が降らないといいな。雨は嫌いじゃないけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る