第6話 愛するアイス

 アイスが好きだ。いや愛している。口の中に入れた瞬間、溶けてしまうあの儚い食べ物がとても好きだ。冷たくて、甘くて、滑らかで、ざらついているのも美味しい。アイスだけでない、氷も美味しい。かき氷をアイスだというと違和感があるが、口の中からいなくなってしまうあの喪失感がより冷たく、より甘く、より水になってからだに流し込まれていく。スプーンですくったりストローで半ナマを飲んだり、メロンソーダやコーヒーと仲良くしたりする。時にアイスはあたたかくなる。時にアイスはケーキになる。時にアイスは三兄弟になる。


 アイスは季節を問わない。年中無休のお店ができたからでもある。冬でもこたつで食べるのは美味しい。お風呂上がりもよし、夏の暑い時にドロドロのアイスを食べるもよし。春や秋に夏を恋い焦がれて食べてもいい。


 愛しているとはアイスへの思いと同じだと俺は思う。好きと愛の違いなんてわからなかったが、アイスに対する俺の思いは好きなんかじゃ言い表せない。俺の人生には常にアイスがつきまとった。いや寄り添ってくれた。ガキの頃いじめられた後、駄菓子屋で買ったアイスは当たり棒が出た。中学生の頃振られた後に買ったレモン味のアイスは本当に酸っぱくて涙が滲んだ。高校受験のときアイスを食べるなと言われて腹が立って勉強しまくった。大学受験はアイスを食べまくって腹を壊して留年した。就職先の上司に分け合うタイプのアイスを渡したら、なんと俺に昇格の話が来た。膝で折る姿がたくましかった、持ち手の方を渡してくれたからだそうだ。同僚にアイスへの想いを語ったら気持ち悪いと言われた、その後買ったバニラアイスはしょっぱかった。それから俺はアイスへの重いをひた隠しにするようになった。あの日新商品でバカ売れしてて売り切ればかりで、店を巡り歩いて、やっと見つけた最後の1つを取り合った、彼女に会うまでは。彼女も俺と同じでアイスを愛するものだった。そしてそれまでお互いに1番愛していたのはアイスだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る