剣と魔法と、ちょっとの冒険とⅡ『3つのダンジョンと魔王の復活』
九里須 大
案内人
旅行者には常に危険がつきまとう。
天候、水・食料の管理はもちろん、盗賊団との遭遇、野生生物との死闘など、多種多様だ。
だが、この集団の旅はどうだろう。
天候は自然現象だから仕方ないが、それ以外は何の心配もいらない。
魔王を倒し、砂漠の国を救ったヒーローたち。
ヒムラハム改め、アルカス率いる勇者一行である。謎の男の口車に乗せられて、向かっている国は、なんと前回のお話の発端、二人の姫が魔王にさらわれた国だ。そこは有名なリゾート地で、富豪たちが惜しみなく落とすお金で成り立っている国。
旅を始めて五日目。
ようやくネゴから行く先を聞かされる一行。
今更だが、あの男とネゴとはどういう関係なんだ?
いつも旅の情報やら資料をネゴに渡し、出発前に何やら話し込んでいる。この際だから、思い切って聞いてみた。
夕食を終えた焚き火の前である。
「それをお知りになりたいですか?」
逆に問うネゴ。
なな、なんだよ。
暗くなり始めた平原の一角。焚き火の明かりで赤みを帯びたみんなの顔。
なんかこえ~よ。
急に肩をたたかれ、思わず体がビクンッと反応する。砂漠の盗賊団、団長のネコババがそのまま腕を首に回す。
「野暮な質問だぜ、アルカス。楽しけりゃいいじゃないか」
ネコババの言葉に、四人の盗賊たちもうなずく。
「世の中、知らないほうが幸せ、なんてこといっぱいあるぜ」
彼の言葉を聞いて、ネゴがニヤリと笑う。
その顔やめろ。
結局、男とネゴの関係はうやむやになり、旅の本題に話が進んだ。
「今回、その国のリゾート地開発事業部からのご依頼です。リゾート地拡大のため、新たに購入した土地に古い遺跡がありまして、それを観光の目玉にしたいと計画されているそうです。十 日ほど前に調査団を派遣したのですが、数日経っても帰ってこない。第二陣を送りましたが、今だに連絡がない。変な噂が広まれば、せっかくの観光事業が台無しだ。どうか極秘で調査をしてほしい。というご依頼です」
なるほどな。金払いがいいのはそういうことか。
「面白そうじゃないすか、兄貴」
と魔法使いAのクンセイ。
火系魔法使いでありながら、前回の旅の始めは煙しか出せなかった長身の男。
「ちょっと怖そうだけど、兄貴がいれば大丈夫。俺達ついて行きますぜ」
と魔法使いBのバン・ソーコ。
無駄に筋肉質で、擦り傷しか直せなかった男。
二人共、魔法使いとしてはまだ若いが、魔王討伐という経験を積んでいる。魔力も上がっているし、頼りになる奴らだ。
「つまり、このメンバーで調査するってことは、魔物とかが出てくると?」
ネゴに問う。
「そういうことです」
魔王を倒したいま、脅威となる悪はいない。
楽勝なんじゃないか。
「明日、食料を補給する村で、遺跡への案内人と合流する手筈になっています」
と付け加えるネゴ。
じゃあ、明日に備えてそろそろ寝るか。
そんなタイミングで、少し離れた場所にある荷馬車の扉がバタンと開いた。出てきたのは、砂漠の国のお姫様。双子の残念な方、パトラ姫だ。
「そろそろ寝る時間じゃないか。アルカス、早くこっちに来い」
と、さも当然のように姫専用の荷馬車に誘う。
魔王を倒した特典として、姫との恋愛自由を許されたが、俺は清楚でおしとやかな姉の方が好みなんだけど。
・・・はっ!!
矢を射抜かれたような殺気。
心の中を見透かされたような、パトラ姫の鋭い視線。
「えぇ~っと、この辺りは魔物がウヨウヨ出てくるらしいから、ここで見張っていないと」
な、みんな。
振り返ると、みんな布を頭まで被り、寝ているふりをしていた。
薄情者め!
パトラ姫は荷馬車から飛び降り近づいてきた。腕を掴まれ引っ張られる。一国の姫がこんな事していいのか?
「パトラ姫、駄目だろ」
俺の言葉で姫の足が止まる。思いとどまってくれたのか?
「心配ない、大丈夫だ」
はい?
「今日は大丈夫な日だ」
そう言って、再び手を引く姫。
「私は大丈夫じゃなくてもいいけどな」
いやいや、そこはちゃんとやろうよ。一国の姫様なんだから!
「今夜は寝かせないぞ」
姫が言った。
苦笑するしかなかった。
次の日。
寝不足で何度も馬から落ちそうになりながら、ほぼ予定の時間に村に到着。村人たちは快く迎えてくれた。事業部からの援助で、小さな村は潤っていた。他言無用のために相当なお金を積んだに違いない。
馬たちを休ませるため、小屋へつれて行く者。砂漠の姫のために、特別な部屋を用意している宿屋。南国から取り寄せた食材で造った豪華な食事。まだこれからなのに、終わったかのような祝宴。
昼間っからはしゃぎすぎだぞ、お前たち。
ま、いいけどさ。
パトラ姫もかなり酔っているようだし、今夜はゆっくり寝れそうだ。
村長とネゴが話をしている。
案内人が到着したらしい。俺とネゴと村長は、こっそり宴会を抜けて、案内人のもとへ向かった。少しでも早く遺跡の情報が知りたい。ネゴと俺はたぶん同じ気持ちだったと思う。
案内人はちょうど馬から降りたところだった。俺たちに気づいて振り向く。顔は布で覆っているので見えないが、小柄で細身だった。
「この方が案内人です」
村長が言った。
こちらが勇者様一行です。
案内人は顔を覆った布を取った。
「初めまして。私が遺跡の案内役をさせていただくエリザベと申します」
意外にも、女だった。
肌は浅黒く、ツヤのある黒髪と黒い瞳。笑顔のなかで白い歯が際立って見える。
「あなたが勇者様?」
彼女の問いにうなずく俺。
「もっと怖そうな方かと思っていましたが、少しホッとしました」
あ、駄目だ。
胸がキュンとなる。
超タイプなんですけど 。
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