474文字の世界「ティータイム」

やかんにカップ二杯と半分の水を入れて火にかける。

適温に達するまで、私は茶葉選びに時間を注ぐ。

今日はストレートの気分だった。

ルピシアもいいが、ここはあえてマリアージュフレールにする。

手に取った缶は「エロス」

よからぬ妄想をされたり、あるいは聞き間違いかと首を傾げられたりする、ちょっと不憫な名前。

でも味は最高だ。

普段はミルクと合わせるが、今日は砂糖もいらない。だって、そういう気分だから。

なにか特別なことがあったわけじゃない。

ただ飲みたいと思ったから紅茶を淹れて、お菓子を食べる。

それだけのことだが、日常においてはどこか特別な儀式のように思えるから不思議だ。

沸騰直前で火を止め、茶葉を入れたポットに注ぐ。

よい香りがふわりと漂い、それだけでちょっと幸せになる。

やかんに一杯分の湯を残し、残りはカップへ。

器を温めておけば熱いまま楽しめるのだ。

茶葉が開き綺麗な色が広がるまで、今度はお茶請けの菓子を選ぶ。

棚のガラス戸に映った顔はこどものようだった。

もしかすると私は、お茶をすることそのものより、それまでに費やす手間と時間を一番楽しんでいるのかもしれなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る