631文字の世界「一番美味しいアイスの食べ方」

あまりの暑さに耐えかねてアイスを買ったはいいが、そのまま食べるのは少し味気ない。

そこで、ちょうど暇していた中田を呼びつけ、「お前が一番おいしいと思うアイスの食べ方を実演してくれ」と頼んだ。

「それなら電話で指示した方が早かっただろ」

文句を垂れながらも中田はすでに準備を始めている。

「クッキーとかバウムクーヘン温めてアイス乗っけるのもいいけど、やっぱりバニラアイスにはブランデーとホットチョコだよな」

コンビニで一番高かったアイスが良い具合に溶けるのを御作法通りに待つ間、中田は鍋でチョコレートを溶かし生クリームで伸ばしていく。

「そういえば、お前の一番美味い食べ方ってなによ」

「あとで教えちゃる」

「ふぅん」

器にアイスをざくざく盛り付け、ブランデーをスプーン一杯、沸騰直前のチョコソースを二杯、格子状に垂らすと、なんともお洒落な出来映えになった。

「お前こういうの女子並みに凝るよな」

「ほっとけ。お前だって男のくせに甘いもんばっか食べやがって」

くだらない言い合いも、すぐ食べることに忙しくなる。

「それで、お前の一番美味い食べ方とやらはなんなわけ?」

「お前と一緒に食べること」

中田の手が止まる。

顔を上げると、愛しい恋人は真っ赤になって固まっていた。

「ちなみに、生涯これ一択だから。くれぐれも俺のこと捨てないでね」

ビターチョコの熱で温められたブランデーが口内でアイスと絡み合う。

舌はじんじんと冷たいのに、吐く息は熱っぽい。

あれほど疎ましかった暑さが、今は少しだけ心地よかった。

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