254文字の世界「赤ちゃん」
夫婦に子どもが出来ないと分かって、もう長いことになる。
夫は残念がったが、子育てに使うはずだった時間を趣味に使えるのは貴重だと、妻は気丈に振る舞っていた。
妻は働き者で、なんでもてきぱきとこなすことができたが、夫は物忘れが多く、よくドジを踏んだ。
今日も夫はカレーの皿をひっくり返し、顔の半分と服をベタベタにしてしまった。
「まったく何やってるのかしら」
「すまない、タオルをとってくれ」
夫に拭かせたら皿が何枚あっても足りないと知っている妻は、手ずから夫の顔を拭う。
「苦労をかけるね」
「ほんと、大きな赤ちゃんですこと」
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