441文字の世界「例えば、こんな拷問」

突然車に引っ張り込まれてから、どれほど時間が経っただろうか。

世間ではおそらく自分の状態を拉致監禁と呼ぶのだろうと、女は現実逃避気味に考えた。

「一体私が何をしたの?」

目隠しされて見えない相手に問いかけたが、返ってきたのは下卑た高笑いだった。

「今からお前を拷問してやる」

声の主は女の顎をむんずと掴み、無理やり口を開かせた。

抵抗も虚しく、何かが押し込められる。

劇物? 毒薬? まさか汚物?

パニックに陥りかけた女は、しかし覚えのある味だと分かるや否や、それまでの慌てぶりはどこへやら、すっかり平静を取り戻した。

「馬鹿な……」

慌てたように次々と押し込んできたが、女は平然と咀嚼し飲み下した。

「この拷問に耐えられるなんて、貴様、一体何者だ!」

「いや、ただのOLだけど」

一体これのどこが拷問なのかと、女は首を傾げた。

パクチーは美容効果が高く今人気急上昇中の野菜だというのに。

少しくらい形が歪で筋張っていても、さして問題ではない。

強いて言えば、あの黄緑色の虫を連想させるカサカサという音が耳障りだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る