偵察空域

三色

ー交戦ー

 衝撃がコクピットを走る。左腕部シールドに被弾。とっさに防御姿勢を取らせたことが幸いし、ダメージはそこまで大きいものではない。四肢の質量移動で体勢を立て直し、右腕のライフルを向ける。

 敵は一機。哨戒行動中に遭遇し、こちらを確認するなり攻撃を仕掛けてきた。僚機は既に被弾し小破、後退している。母艦までの距離は遠い。空気の無い宇宙では白く霞むことはないが、それでも距離が空けば当然視認など望めるものではない。

 照準レティクルを相手に合わせる。ツーマンセルが不可能な以上、僚機から連絡を受けた母艦からの増援に期待するしかない。それまでできることは、ここで奴を足止めし、自身が死なないように動くことだ。逃がせばここに獲物がいることを知られてしまう。それはなんとしても避けなければならない。そう自分へ言い聞かせながら、縦横無尽に動く敵に対し、自機のライフルを発砲する。当たらない。分かっている、今のは牽制だ。同様に相手の回避予想ポイントを潰すように発砲。狙い通りのポジションへと追い込み、ライフルの射撃モードを瞬時に単発から連射とし、トリガーを絞りこむ。

「……どうだ?」

 仕留められるとは思ってはいない。この敵にこの偵察装備ではせいぜい掠り傷がいいところだろう。予測通り自機の弾丸は外れる。が、奴はこちらの誘いに乗ってくれたようだ。接近軌道を取りこちらへ銃口を向けてくる。

「……」

 ――かかった、などと口にはしない。獲物を前に慢心することは死に繋がる。自機のシールド裏に装備してあるヒートブレードのロックを外す。同時に。

「ーーっ!」

 シールドを敵機に向かって蹴りこむ。宇宙空間では空気抵抗がなく、慣性のまま勢いを保って物体はそのまま真っ直ぐ進む。当然、今蹴りつけたシールドは真っ直ぐ敵機へ。目くらましだ。だが、奴はその目くらましも意に介さずこちらへ向かってくる。

「上等だ。」

 左のマニピュレータでヒートブレードを逆手に掴む。牽制射撃を交えこちらも接近をかける。ブレードとは名ばかりのナイフサイズの得物だが、そのサイズの小ささから対応力に秀でる武器でもある。スラスターを吹かし、奴のコックピットへその刃を突き立てるべく振りかざす。そして――


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