第3話 初めての公開生放送~First Contact~

 その知らせは、突然やってきた。

「公開生放送!?」

 姫ちゃんが言う。相当驚いているみたいだ。まあ、僕もだけど。

「そう。今年度から、グリーンフォレストホリデープログラムが始まるのはわかるよね?」

「はい。不定期でさまざまな特別番組を放送するんですよね。もしかして・・・?」

「そう。その第1弾に、なんと!グリーンウェーブが選ばれましたっ!」

「わーい!で、いつですか?」

「4月29日、水曜日。午前10時から12時までが第1部、途中でFRESH NOONをはさんで、14時から16時まで第2部。」

「分割4時間ですか。結構大規模ですね。で、会場はどこですか?」

「姫ちゃん、3月に成海市市民交流センターができたのは知ってるよね。そこで行う。」

「うわーっ、すごいですね!頑張りましょうね。」

「うん。で、前日のラストで告知をする予定だから、よろしくね。」

「はい!ところで、いつそんな話が?」

「今日の午前中かな。メールチェックしてたらいきなり曽我部局長が声かけてきてさあ……」


 それは午前中の事だった。あやぽんさんからの手紙を読んだ後、僕はメールをチェックしていた。そんなとき、いきなり声をかけられた。

「南条君、ちょっと……」

「あ、局長。どうしたんですか?」

「うん、ちょっと私の部屋に来てくれるかい?」

「……あの、僕何か悪いことしました?」

「ううん、全然。むしろ君たちにとってはいい知らせじゃないかな?」

?」

「まあ、ちょっと来てよ。」

 僕は言われるがまま、局長室に入った。

「で、話ってのは何ですか、曽我部局長。」

 曽我部博文。DJマックスさんの後を継いで局長に就任した人物。グリーンフォレストの創設から深くかかわっているメンバーの一人で、一見堅物で対面を気にするように見えるが、実際は部下やリスナーのことを第一に考えてくれる、優しくて頼りになる人だ。本人はあまりしゃべるのが得意ではないそうで、マックスさんみたくパーソナリティーとの兼任はしていないが、基本的にはスタジオや各部署に顔を出していることが多く、局長室にいることは少ない。

 そんな局長がわざわざ局長室に僕を呼び出したということは、恐らくそれなりに大きなプロジェクトなのだろう。

「南条君、公開生放送やらない?」

「はい?」

「いやね、最近、リスナーさんからの公開生放送をしてほしいってメールが後を絶たないんだよ。南条君も今年大学を卒業して多少時間に余裕ができただろうし、ここらでひとつやってみようかな、って思ってさ。」

「でも待ってくださいよ、グリーンウェーブって夜の番組でしょ?しかも終わるの深夜ですし。そんなに人来ます?」

「もちろん、ただ普通にやっただけじゃ、人は来ないよ。そこでこれだ。」

 そう言うと、局長は1枚の紙を渡してきた。

「今年から新設される特番枠、これの第1弾としてやってみようと思うんだ。グリーンウェーブの人気は絶大だ。公開生放送を聞きに来たいと思う人はたくさんいるだろう。おまけに、今回の会場である成海市市民交流センターは先月出来たばかりだから、そこに来た人がついでに……って可能性も十分ありうる。私としては十分いけると思うんだが、どうだろう?」

 そりゃあ、もう。答えは決まっていた。

「……やりましょう、公開生放送!」



 そして生放送前日、番組のエンディング。

「南条里志と姫宮明日香が午後8時よりお送りしてきました、10代応援ラジオグリーンウェーブ、エンディングです!いや~、今日も楽しかったね。」

「はい!」

「さて、番宣です!もうさんざんCMやってますけど、明日の午前10時から、3月にオープンした成海市市民交流センターから、我々生放送しちゃいますよ~!」

「はい!明日、4月29日午前10時より、『FMグリーンフォレスト・ホリデープログラム 10代応援ラジオグリーンウェーブ公開生放送 春のリクエストスペシャル』と題して、成海市市民交流センターから公開生放送を行います!時間は、午前10時から12時まで、途中通常番組の『FRESH NOON』を挟んで、14時から16時までと、2部制で行います。観覧無料、『FRESH NOON』の放送中には、普段の放送の裏側を大暴露しちゃう、ここでしか聞けないバックヤードトークもありますので、ぜひ皆さん奮ってご参加ください!そしてこの日は、皆さんからのリクエスト曲をどんどん流したいと思います!皆さんからのリクエスト、お待ちしています!」


「そして、明日も夜8時からいつも通り、グリーンウェーブ、ありますよー。明日のメールテーマは、『リクエストスペシャル二次会!この時期にかけたい曲を教えて!』です。というより、リクエストスペシャルの時間でかけられなかった曲をじゃんじゃんかけていきますので、逆に言えばリクエストスペシャルで全部かけちゃったら、明日は番組成立しません!番組成立のためにも、皆さんからのリクエスト、本当にお待ちしてます!

 姫ちゃん、明日の公開生放送、頑張ろうね!」

「はい!よろしくお願いします!」

「この後は、『グリーンフォレスト・ミッドナイトミュージック』でお楽しみください。僕たちとはまた、明日の朝10時、成海市市民交流センターで会いましょう!ここまでのお相手は、南条里志と、」

「姫宮明日香でした!」

「「バイバイ!」」



 そして、いよいよ当日。

「はわわ~…」

「姫ちゃん、大分緊張してるねえ。」

「だって、だって、公開生放送ですよ!公開!緊張しないわけないじゃないですかぁ……」

「そうかい?だってやることは普段と変わらないよ?むしろいつもより楽なくらい。」

「でも、でも~…」

「……大丈夫。一人じゃないんだから。何かあったら、僕に全部任せればいい。だから安心して。」

「……はい。」

「よし!放送10分前だね。行こう!」



「皆さん、おはようございまーす!今日は『FMグリーンフォレスト・ホリデープログラム 10代応援ラジオグリーンウェーブ公開生放送 春のリクエストスペシャル』にお越しくださいまして、ありがとうございます!本日、パーソナリティーを務めさせていただきます、南条里志と、」

「姫宮明日香です。」

「「よろしくお願いします!」」

「さて姫ちゃん、どうこれ?もうね、たくさんの人、人、人!本当にありがとうございます!」

「はい!もうブースに上がった瞬間、目の前にたくさんのリスナーの皆さんがいて、正直今も怖気づいています…」

「おお…大丈夫かい?」

「大丈夫です。皆さんの期待に応えられるよう、一生懸命パーソナリティーを務めさせていただきます。よろしくお願いします!」

「はい!姫ちゃんは、今回が初めての公開放送なので、温かく見守ってあげてください。

 さて、公開生放送のご観覧についての注意事項を申し上げます。

 まず、写真、動画撮影ですが……原則OKです!ただし、インターネットなどの不特定多数への公開はご遠慮ください。帰ってから自分で楽しむ、くらいにとどめておいてもらえればと思います。もちろん、今日の様子はうちの自慢のカメラマンがちゃんと撮っていますんで、後日ホームページに載せる予定です。また、当然ですが危険物の持ち込みはご遠慮ください。もし持ってる方いたら今僕に渡してくださいね。怒らないから。」

 リスナーから笑いが起きる。よし。

「そして、リクエストなんですが、実は入口の方にリクエストボックスを設けてあります。リクエストボックスに送られたリクエストは採用率微妙に高いですので、もしよろしければぜひ投稿してもらえればと思います。

 さて、残りが大体7分、8分?くらいですが、あ、そうだ。皆さん今日どこから来ました?成海市内から来た人ー!」

 はーい!半分くらいが手を挙げた。

「おっ、おっ?じゃあ、それ以外のとこから来た人―!」

 はーい!こちらも半分くらい。

「おお…結構市外からきている人もいますね。本当にありがとうございます!いやー、もっと市内からの人が多いと思ったけどねえ。」

「そうですね…意外と市外の方への認知度も高いんですね。」

「そうだねえ。やっぱりサイマルラジオとかですかね。いつもありがとうございます。あ、今夜もいつも通り夜8時から、グリーンウェーブ放送しますので、そちらの方も是非聞いてくださいね。じゃあ、そろそろ準備始めますんで、ここで一旦トーク終了としますね。また12時からバックヤードトークもありますし、CM中とかにもトークしていこうと思ってますので。それでは、今日1日楽しんでいきましょーう!」

 いえーい!リスナーの興奮が高まる。

 さあ準備だ。

 ヘッドセットをつけ、ラジオの音声が聞こえるか確認する。

「姫ちゃん。」

「はい?」

「やっぱ、慣れないね。両側にスピーカーがないと。」

「確かに、今日のヘッドセット、右スピーカーだけですもんね。でも何で今日はこのヘッドセットなんですか?」

「両側スピーカーだと会場の声が届きにくいからね。臨場感と放送音声の両立なんだろうけど、やっぱ使いにくいね。」

「そうですね。あ、5分前です。」

「ん、了解。成ちゃん、そろそろラジオの音声会場に流して。」

「了解です。」

 成ちゃんの操作で、会場にラジオの音声が流れ始めた。

 僕たちはオープニングの原稿の最終チェックを行う。

「今回はタイトルコールを事前収録しているから、タイトルコールの後そのままあいさつに行く、と。」

「そして後はまあ、流れで。」

「流れ、ですね。分かりました。」

 さあ、放送が始まる。



「FMグリーンフォレスト・ホリデープログラム!」

「10代応援ラジオグリーンウェーブ、公開生放送!」

「「春のリクエストスペシャル!!」」



「みなさん、」

「「こんにちは!」」

「毎週月曜から金曜、夜8時からお送りしています、10代応援ラジオプログラム、グリーンウェーブ。パーソナリティーの南条里志と、」

「姫宮明日香です!今日この時間は、『FMグリーンフォレスト・ホリデープログラム 10代応援ラジオグリーンウェーブ公開生放送 春のリクエストスペシャル』と題して、3月にオープンしました成海市市民交流センターより公開生放送でお送りいたします!」

「はい、そうなんです!僕たち普段は夜にね、10代の皆さんと話をさせてもらっているんですが、今回は史上初、お昼の時間帯に、まあ、我々のような荒くれ者が乱入してしまうという前代未聞の大失態が…」

「いやいやいや!南条さん、荒くれ者って…!大体、私たちそんなこと言われるようなことしましたっけ?」

「いろいろしてるじゃん。放送打ち切られたとたんにリスナー捜しに行ったり、声が終わりかけているのに大声で叫んだり…」

「ああ、まあ、確かに…」

「…いやいや認めないでよ!冗談で言っただけなのに!?」

「…それ、冗談に聞こえませんよ?」

「ガーン!嘘だ…まあいいや。さて気を取り直して、今日は春のリクエストスペシャルです!皆さんからのリクエストがないと番組が成立しません!皆さんぜひリクエストしてください!リクエストはいつも通りメール、ファックス、ホームページの投稿フォームからお願いします。

 そしてね…人多いね!本当に!」

「そうですね!まさかこんなたくさんの方が来てくださるなんて…本当にうれしいです!」

「はい!これから6時間、まあ途中通常番組挟むんで実質4時間ですが、ぜひ最後までお付き合いください!それではさっそくリクエストかけていきましょう!記念すべき一発目の曲は、成海市の15歳の女の子、チカさんからのリクエスト。SEKAI NO OWARIで、『スターライトパレード』です。どうぞ!」

 成ちゃんの操作で、音楽が流れ始めた。

「ふふ、なんか不思議な感じだね。こうやって大勢の人の前でラジオやるなんて。」

「そうですねえ。しかも外ですし。」

「だねえ。」

「あ、南条さん、メールきましたよ。」

「おっ、どれどれ?」

 そのメールを見た僕は、思わずにやけてしまった。

「…ふふーん。そっかあ。姫ちゃん?」

「ふふふっ、はい!」

「叶えてあげようよ、この子の願い!」

「言われなくてもっ!」


「お送りした曲は、SEKAI NO OWARIで『スターライトパレード』でした!

 さて、成海市市民交流センターより生放送でお送りしています、FMグリーンフォレスト・ホリデースペシャル 10代応援ラジオグリーンウェーブ 春のリクエストスペシャル。ここでメールを一通紹介しましょう。姫ちゃん。」

「はい!成海市のカーマくん。17歳の男の子からです。

『南条さん、姫宮さんこんにちは!』こんにちは!

『僕は今、同じ学校に通っている好きな女の子がいます。僕は今日、その子に告白します!』と書いてくれましたが……」

「はい、実はカーマくん、今この会場にいるみたいだよ?」

「え!だってさっき、ここまで読んだ後生電話って言ってたじゃないですか!」

「いやそうなんだけどさ、あそこからなんか叫び声聞こえてくるんだよね。よっしゃあ!とか、俺はできる!とか。ね?そこにいるんでしょ?こっち来なよ!」

 多くの人たちの歓声の中、カーマくんが照れくさそうにステージの上に上がった。

「さてカーマくん、さっきのメール、あれまだ続きがあるよね?」

「はい。その子に今、ここで、直接伝えたいんです。」

「…え?」

 私は困惑した。南条さんは一度メールに目を通している。にもかかわらず、彼の言葉に「え?」と返したのだ。

 カーマくんは続ける。

「ラジオを通じて、直接、伝えたいんです。」

「…はい?」

「彼女に、今日いいラジオあるから聞いてみてって言ってあって、たぶん今聴いてると思うんです。お願いします!」

「今か!マジか!多分その子もうわかってると思うよ!ドキドキじゃない!ちなみに現時点での感触はどんなかんじ?」

 そこまで南条さんが言ったとき、私は気づいた。これは前フリだったんだ。公開告白を盛り上げるために、わざとやったんだ。

 カーマ君が南条さんの質問に答えた。

「いやその…向こうもなんか、結構いい感じに思ってくれているみたいなんですよねエヘヘヘヘヘヘ」

「もう完全にニヤついちゃってんじゃん!じゃあもう告白しちゃおう!」

「はい!」

「ちなみに彼女の名前とか、言っちゃって大丈夫?」

「あ、奈央っていいます。」

「よし!じゃあカーマくんから奈央ちゃんに。行けえっ!」



「初めて出会った時から、あなたのやさしさに心惹かれていました。何のとりえもない僕ですが、奈央を好きな気持ちはだれにも負けません。

 僕と、付き合ってください!」



 音楽が流れだした。

「いや言ったねえ!カッコよかったよ!」

「はい!ありがとうございます!」

「彼女、聴いてるかなあ?」

「きっと聴いてますよ。きっと。」

「だよね、姫ちゃん。」

 その時、私はあることに気づいた。

「南条さん、あれ……!」


「お送りした曲は、スキマスイッチで『パラボラヴァ』でしたが……音楽流れている間、予想外の展開が起きていました。ちょっと僕、ものすごく興奮しているというか、ドキドキが止まらないというか、ね、姫ちゃん!」

「はい!実はこれまったくの偶然なんですけど、なんと奈央ちゃんもこの会場に来てたんです!」

「そうなんですよ!さて、カーマくんの告白、結果はいかに?ということで、実は彼女もう答えは出ているそうなんで、今ここで発表してもらおうかと思ってるんだけど、いける?」

「…はい。」

 心なしか、奈央ちゃんは恥ずかしがりながらも、うれしそうな感じだった。

 南条さんが言う。

「よし!それじゃあ答え、返してもらいましょうか!どうぞ!」



「わたしも、初めて会った時から、カーマくんのことが好きでした。

 こんな私でよければ、よろしくお願いします!」



「……よっしゃあああああああああああ!」

 会場に、南条さんの叫び声が木霊した。

「ちょ、ちょっと南条さん!?どうしたんですか急に!?」

「…あ、ごめんごめん。いや~、うれしくってつい叫んじゃったよ。2人ともうれしいと思うんだけど、やっぱね、見てた僕もすごい嬉しい!2人とも、末永くお幸せに!」

「いやいや、結婚じゃないんですから!」

「「はい!」」

「えーっ!?」

「あはは、2人ともノリいいねえ!じゃあここで、僕から1曲プレゼントしちゃおうかな。お送りする曲は、Do As Infinityで「Ever...」です。どうぞ!」


 その後も番組は順調に進み、無事に公開生放送は終了した。

 来場者数は合計で1000人を超えた。聴取率も高く、初めての特番としては大成功をおさめた。そしてこの経験は、僕たちにとっても、貴重な経験となった。

 え?番組の裏話はどうしたって?

 それはまた、別の機会にでも話すことにしよう。


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