第19話
あの敗北以降、鬱々とした日々を送り、そのまま三年に上がった。
窓際の席に位置する鉄男は授業中、立て肘をついて、ボーっと外の景色を眺めていた。
実はこれは、同じクラスの鷲見の猿真似であった。
鷲見はひょろっとした高めの身長。細いサラサラとした髪質で、やや色白な肌。顔の印象はシュッとした“モアイ”で、その涼しげな表情はどこか余裕を見せた。全体的に清潔感を醸していて、女子には割と人気があった。
喋り方は脱力を感じさせ、目力のない様が、世を諦めた印象で、そこに鉄男は惹かれていた。
ある夕方の授業中、窓際の席の鷲見が、立て肘をついて、窓の景色を眺めていた。
先生が、「鷲見、お前ステキだなぁ」と揶揄うと、笑いながらみんなが鷲見に注目した。
その時の鷲見は本当にステキで、夕方の光を顔半分に浴び、サラサラヘアーをキラキラと輝かせていた。
“黄昏の哀愁”という言葉が、その時の鷲見にはぴったりだった。
鉄男もこれに倣った。いつか先生が「蓼崎、お前ステキだなぁ」と言ってくれるのを待っていた。しかし、その言葉を一度も受けることなく、卒業することになるのである。
鉄男は鷲見とは相性が良かった。鉄男は末っ子、鷲見は長男という、育った環境によってこびりついた“気質”が、お互いに噛み合っていたのだろう。
鷲見は面倒見が良く、鉄男はそれに甘えた。
面倒見の良い鷲見は、鉄男に彼女まで紹介してくれた。
「どの子が気になる?」
という話から、何人か上げていく名前の中に、鷲見と仲が良い女子がいて、話をつけてくれたのだ。
三島というその女子は、身長は鉄男より少し高く、色白で、全体的に清楚なイメージだった。顔は菊人形を思わせる冷たさを備えたが、それは全体的に整った印象を、見るものに与えた。クラスでも割と人気があって、鉄男にはやや高嶺の花であった。
鉄男が告白さえすれば、付き合える段取りになっていた。
告白することには慣れていた。
そして、呆気なく付き合うこととなった。
この三島が、鉄男にできた、初めての“彼女”だった。
帰り道を一緒に歩いた。何を話して良いのか分からなかった。
何か胸に暖かなものを感じていた。
その夜、鉄男の日課となっていた“自慰”を、なぜかやる気になれなかった。
実は鉄男は、中学一年に上がった頃、父親の部屋から拝借したエロ本を読んでいて、自然発射した。それが鉄男の初射精だった。
快楽を身に覚えた鉄男は、それから毎日のように自慰に励んだ。
胸の暖かなものが、それを躊躇させた。
不思議な感覚だった。
三島との関係は、あっさりと自然消滅に終わった。
どっちも主張が控えめなタイプで、お互いが連絡を躊躇するうちに、お互いの用事が重なっていった。別に忘れ去った訳ではないが、お互いに会わない方が都合が良くなっていった。
胸の暖かなものは色褪せ、鉄男の日課はまた始まった。
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