第17話
こうして、何か事件じみたことを起こすたびに、“自分は強いんだ”という妄想を強めていった。
長男の口調を真似して、反抗期にも入った。
母親が何か小言を言うと、「うるせークソババー!」と叫んで、家のものを壊したり、壁に穴を開けたりした。
鉄男は、反抗期でもなんでも長男の真似をした。
髪型はもちろん、服装や聴く音楽も真似した。長男が良い曲だと言えば、わからなくても無理やり良い曲だと思い込んだし、長男が悪い曲だと言えば、良い曲だと思っても、それは悪い曲だった。
ただし、テストで良い点を取ったり、活字だらけの本を読んだり、球技で活躍したり、女子にモテたりということは、真似しようにも無理だった。
この長男の龍一には、相手を大らかに包み込んで安心させるような、包容力に似た魅力があった。
根拠のない動物的な魅力なのか、蓼崎家で飼う犬も、なぜかこの長男に一番懐いた。
そういうことで、鉄男も龍一には懐いていた。次男から与えられるプレッシャーを、唯一分かってくれる理解者でもあったし、顔の面影も二人は似通っていた。
スポーツ万能、頭脳明晰な龍一を目標とする気持ちもあった。
長男はバスケ部だったが、鉄男はバトミントン部だった。
球技は苦手だし、バスケットボールは大きくて硬くて痛そうだったから避けた。
小五の時に目覚めた持久力の面を考えてみれば、ここは陸上部の線も考えられたが、鉄男は持久走は嫌いだった。できれば走りたくなかった。理由はしんどいから。スタートラインに立った時の吐きそうな緊張感と、これから浴びるであろう披露を想像すると億劫になるのであった。
バトミントンを選んだのは、部活紹介で先輩達がシャトルを「パンパン」と打ち合ってラリーを展開する所を見ていて、爽快な気分になったからだ。
シャトルは、先端がコルク製で、羽根が付いているので、ボールのようにモロの勢いで飛んできたりはしない。軽く、風の抵抗を受けるので、フワッと飛んだ。
当たってもそこまで痛くなさそうだった。
何より、楽しそうだった。
しかし、駅伝の時期がやってくると、持久力のある鉄男は駆り出された。
そのたびに、胸の苦しい思いをした。
それでも結果は悪くないので、その内にズルズルと、陸上部に引きずり込まれていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます