第2章 仲良し家族
第8話 何がなにやら
百舌谷夫妻の一件があった翌日、俺は優奈から実家に呼び出されていた。
相談事があるらしく、俺にしかできない話があるらしい。
しかも、その直後に優司からも同様の電話があった。
どうやら、二人共個別に相談があるようだ。
妹と弟に頼りにされるのは素直に嬉しいのだが、優司がすばるにプロポーズしてから三日しか経っていない今、相談内容に不安しか感じない。
いまだかつて、これ程までに実家に帰る時に気が重かった事があっただろうか。
どうしたものかと色々と言い訳やら設定を考えながら実家に向かえば、あっという間に目的地に着いてしまった。
ドアを開けて玄関に入れば、すぐ隣の居間から優司と優奈がものすごい勢いで顔を出した。
「「おかえり!」」
「た、ただいま……」
二人の勢いに気圧されつつ、話を聞いてみると、 一応二人の間では既に話は付いているらしく、最初は優奈の話から聞くことになった。
俺は半ば連行されるように、二階の優奈の部屋へと連れて行かれる。
優司は自分の部屋で待っているそうなので、優奈との話が終ったらそっちに行く事になった。
部屋に二人きりになると、優奈は俺に適当に座るように促し、俺は言われるがままにクッションの上に座る。
「相談の前にね、実はお兄ちゃんに話さなきゃいけないことがあるの……」
随分と深刻そうな顔で優奈が言い、俺は思わず居住まいを正す。
「お兄ちゃんの恋人の事なんだけど、実はその恋人って、稲葉さんなんでしょ?」
真剣な顔で優奈が尋ねてくる。
俺は返事に困って咄嗟に言葉が出なかった。
どうせまたすばるに関する恋愛相談だろうと思っていたのだが、まさか、今になってその話をされるとは思わなかった。
「前にすばるさんと稲葉さんと一緒にコスプレイベント参加した事があって、その時に知ったんだけど……勘違いしないでね! 私は二人の事応援してるから!」
俺の沈黙をどう取ったのか、優奈は慌てて言葉を続ける。
その一部始終について、俺は一緒に参加していたので当然知っているが、どう答えたものか。
というか、妹の気遣いが辛い。
「本当はお兄ちゃんが自分から言ってくれるのを待とうと思ってたんだけど、実はちょっとそんな事言ってられない状態になってて……今日はお兄ちゃんにどうしても聞きたい事があって呼んだの……」
「お、おう……」
思いつめたように言う優奈にかける言葉が思いつかず、結局俺はただの相槌しか打てなかった。
しかし、そんな事言っていられない状況というのは、何を指すのか。
そう考えて俺は三日前の優司のプロポーズを思い出したが、いや、まさかな。とその考えを否定した。
俺があれこれと考えていると、突然優奈に正面から力強く俺の両肩を掴まれた。
「まず聞きたいんだけど、お兄ちゃんって、元々男の人が好きだった?」
目と鼻の先まで顔を近づけながら優奈が尋ねてくる。
たぶん現在、俺が稲葉と付き合っている事になっているのを踏まえた上での質問なのだろう。
しかし、ここでこの質問に頷いてしまうと、将来もし彼女ができて彼女を紹介する事になった時、色々と弊害が出てきてしまうので、ここははっきりさせておかなければならない。
「まあ、普通に今も女の子は好きだけど……」
「ちなみに、稲葉さんと付き合う前から男の人に興味とかあった?」
更に優奈はぐいぐい俺に尋ねてくる。
「いや、無いけど……」
「なるほど。やっぱり、この相談はお兄ちゃんにしかできないわ」
俺が答えれば、優奈は納得したように頷きながら身体を俺から離し、座りなおした。
ここまで来ると、優奈の相談の内容はなんとなくわかってきた。
恐らく、俺と稲葉の話をすばるを口説く時の参考にしたいのだろう。
「お兄ちゃんたちが付き合うようになった話を聞いていると、稲葉さんからお兄ちゃんにアタックしたみたいだけど、それでも今までの恋愛対象とは全く性別から何から違う人を好きになるって、すごい事だと思うの」
俺の予想を裏付けるように優奈は話を続ける。
なんだか稲葉にあらぬ疑惑がかけられているが、しずくちゃんやすばるのような美少女が周りにいるにも関わらず、俺なんかと付き合っている事になっている時点で、もはや釈明のしようがない。
「お兄ちゃんは、稲葉さんのどこに惹かれて付き合うようになったの?」
どこに惹かれたもなにも、そもそも付き合っていないのだが、もはやそんな事言えない雰囲気である。
女装した俺の口説き方を、俺が付き合っていることになっている稲葉とのやりとりを参考に考える。
もう何がなにやらだ。
一周回って正しいような気もするが、俺は稲葉とも優奈とも付き合う気は全く無い。
さて、どう答えたものか。
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