続々・おめでとう、俺は美少女に進化した。
和久井 透夏
第1章 愛ゆえに
第1話 破滅願望でもあるの?
「待て、なんでここで一宮を呼ぶことになるんだ」
すかさず俺はつっこんだ。
なぜ、朝倉すばるが住んでいる部屋に
俺の親友、稲葉の幼なじみであり、稲葉の姉である美咲さんの恋人一宮雨莉は恐ろしく好戦的な性格をしている。
しかも、現在稲葉が美咲さんの浮気を知りながら黙っていたと誤解しているため、今ここに彼女を呼んでも、ここまで逃げてきた稲葉が一宮雨莉にとどめをさされる未来しか見えない。
「本人がここに来る前よりも先に呼んで、こっちには雨莉の邪魔をするつもりが無いって行動で示すにゃん」
「でも今、雨莉をここに呼んでどうするんだよ?」
さも当然のように言う中島かすみに、俺は首を傾げた。
こちらに一宮雨莉を邪魔する意思がないと説明して、一体何になるというのか。
「雨莉の話も聞いて、状況整理するにゃん。穏便に済ませたいなら、先にその辺をはっきりさせた方が動きやすいにゃん。まあ、雨莉と追いかけっこしつつ、美咲さんに会いに行って混ぜてもらうというのも、中々楽しそうではあるから、
ニッコリと中島かすみが笑う。
確かに今の段階で下手に一宮雨莉の神経を逆なでして、敵に回す方が後々厄介かもしれない。
今、この場に一宮雨莉を呼んで説明しようとした場合と、下手に逃げて余計に話がこじれた場合、どちらが被害が少ないかと考えれば、火を見るよりも明らかだ。
「よし、一宮を呼ぶか」
「おい!?」
俺がそう言えば、稲葉が嘘だろ!? と詰め寄ってきた。
「稲葉、早い段階で一宮の誤解を解いておかないと、後々困るのはお前じゃないのか? 今なら、密室でタイマンよりは安全だぞ……?」
「そ、それもそうだな……」
しかし、俺が現状を説明すれば、渋々ではあったが稲葉は頷いた。
既に顔色は大分悪くなっていたが。
「もしもの時は、骨は拾ってやるよ」
「そこは今の格好のまま膝枕がいい……」
「なんでちょっと癖になってるんだよ」
励ますように稲葉の背中を叩けば、稲葉は俺を上から下まで見てからため息をつくように言った。
どうやら以前女装した状態で膝枕してやったのが、思いの外、気に入っていたらしい。
「大丈夫、いーくんならできるよっ、がんばって!」
「……そういうのは求めてないかな」
「おまっ、人のせっかくの好意を……!」
今も女装した姿のままなので、稲葉が少しでも元気になればと恥を忍んで可愛らしく応援してみれば、そっと目を逸らされた。
ムカついたので、一宮雨莉にしめられても、絶対に膝枕なんてしてやるものかと俺は心に誓った。
「いいからさっさとかけないと雨莉が来ちゃうにゃん」
くだらない言い合いをしだした俺達を見て、中島かすみは呆れたように言う。
中島かすみ曰く、一宮雨莉が実際に乗り込んでくる前にこちらから彼女を招き入れる事が重要らしい。
「……一宮か? 実は今、稲葉がすばるの部屋に来ているんだが」
「あら、鈴村君。そう、ちょうど良かったわ。今、近くに来たとこだったのよ。私が行くまで稲葉を抑えておいてくれるかしら?」
早速一宮雨莉に電話をかけてみれば、既にすぐ近所まで来ているらしかった。
「ああ、だけど話を聞く限り、どうもお前も誤解してる部分がある気がするし、それも含めて話し合わないか」
「誤解も何も、私は稲葉から事情を聞きたいだけなのだけれど……まあわかったわ」
一宮雨莉がやってきてすぐ稲葉が連行される展開は阻止したかったので、対話を申し出れば、一応は了承してくれた。
「どうだったにゃん?」
「一宮がこれから来るらしいんだが、とりあえず、できるだけ誰も怪我しない方向で話を進めたい」
ワクワクした様子で聞いてくる中島かすみに、念を押すように俺が言えば、中島かすみはあっけらかんと答えた。
「そんなの簡単にゃん」
それから十分もしないうちにエントランスのインターホンが鳴り、俺は一宮雨莉をマンション内に迎え入れた。
エントランスのロックを解除するなり、中島かすみは弾む足取りで玄関へと向かった。
何をするつもりなのかはわからなかったが、とりあえず俺と稲葉も中島かすみの後に続く。
しばらくすれば玄関の呼び鈴が鳴り、俺が動くよりも早く中島かすみが玄関のドアを開けた。
「雨莉~待ってたにゃ~ん!」
「……なんでかすみがここにいるの?」
元気いっぱいに中島かすみが一宮雨莉を迎えれば、一宮雨莉は顔を横にずらして、中島かすみの後ろに立っていた俺に怪訝な顔で尋ねてきた。
中島かすみ本人はスルーである。
「グアムのお土産持ってきたら、なんだかとっても面白そうな事になってたから混ぜてもらう事にしたにゃん」
対して中島かすみは気にした様子も無く、嬉々として一宮雨莉を部屋に引き入れた。
「あの霧華さんと美咲さんのよりが戻ったかもなんて聞いたら、気にならずにはいられないにゃん」
そして、早速自ら地雷原に足を突っ込んでいく。
「さっき稲葉から聞いた話だと、千秋さんもこの事知っているみたいだにゃん。これからどうなるのかにゃあ、不倫の場合、千秋さんから美咲さんに、慰謝料請求とかも来たりするのかにゃあ」
一宮雨莉の顔を覗き込むように中島かすみが言う。
こいつ、命知らずか……!?
「…………とりあえず、わかっている事を話してくれるかしら」
俺はいつ中島かすみが一宮雨莉に締め上げられるかと冷や冷やしていたが、一宮雨莉は小さくため息をつき、寄ってくる中島かすみを左手で押し返しながら俺達に尋ねてきただけだった。
とりあえずそのまま四人でリビングに移動し、中島かすみの手土産であるやたら甘ったるいチョコレートを菓子受けに、全員に麦茶を出す。
「それで、かすみは何が目的なの?」
一宮雨莉は席に着くなり中島かすみに尋ねた。
「こんな友達の一大事にじっとしていられるはずが無いにゃん! というのは建前で、将晴にできるだけ穏便にこの事態を収めてほしいって言われたから、今日はこの後予定も無いし、協力する事にしたにゃん」
中島かすみがあっさりと本当の事を話せば、一宮雨莉はふうん、と首をかしげながら目を細めた。
「その協力の見返りは?」
「将晴がなんでも言うこと一つ聞いてくれる事になったにゃん!」
元気よく答えた中島かすみを聞くなり、一宮雨莉は隣に座る俺を呆れたように見た。
「……鈴村君、あなた、破滅願望でもあるの?」
「ねえよ!」
あんまりな言いように思わず反論してしまったが、状況を考えると、確かに傍から見ればそうとしか思えないような選択でもある。
「ひとつ言っておくけど、+プレアデス+は今が大事な時期なんだから、イメージを壊すようなマネをしたら、
「信用が無いにゃあ~そんなつまらない事する訳ないにゃん」
けん制するように一宮雨莉が言えば、中島かすみはとぼけるように笑う。
このやりとりには冷や冷やしたが、正直、一宮雨莉から中島かすみに釘を刺してくれたのはちょっと安心した。
少なくとも、コレで美咲さん達に迷惑がかかるような『お願い』はしてこないはずだ。
「でも、雨莉がそんなに尽くしてる美咲さんは、本当に雨莉の事愛してるのかにゃあ?」
しかし、俺が胸をなで下ろした直後の中島かすみの発言により、再び場の空気は凍りついた。
思わず、テーブルを挟んで正面に座っている稲葉を見れば、何もかもを諦めたような顔で虚空を見つめていた。
お前の持ち込んだ話だろうと胸倉を掴んでやりたいところである。
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