第十五話 想いとともに不安は強く

 帰りの飛行機にて俺は神妙な顔つきで千堂に話しかけた。


「セン、あのさ」

「なんだよ?」

「杉下がかわいいんだ」

「…はいはい、リア充乙」


 人はこれを惚気と言うのかもしれない。前まではこんな話を人にするのは嫌だったけど、今は話したくて仕方がない気持ちだ。

 俺は本に目を落としている千堂に話を続けた。


「なにがかわいいって、全部かわいいんだ。仕草とか言葉とか心とか」

「そうか、良かったな」

「俺…本当に幸せ者だよ。杉下に会えてよかった」

「そうか、幸せ者だな」


 千堂は全く取り合わない。それでも俺は続けた、重々しい口調でゆっくりと。


「でもさ、最近はそう思うほどもし別れてしまったらって考えるんだ」

「…」

「怖くて、仕方がないんだ。いつかその時は訪れるんだろうけど、できるだけゆっくり来てほしい。もし近いうちに別れを告げられたらって思うと、身が引き裂かれるみたいに辛くなる」

「…」


 今は双葉からは好きだという思いがちゃんと伝わってくる。けど、もしなにかの理由で嫌われたら? もし飽きが来てしまったらどうなる? そんな考えが頭の中で堂々巡りを続けて俺に不安の影を落としていた。


 しばらく口を開かなかった千堂が本から視線を上げた。


「そんなんだと」

「え?」

「そんなんだと、ほんとに見限られるぞ。口は災いのもとだ」

「…」

「お前は堂々としてればいいんだよ。自慢の彼女を信じられないのか?」

「そんなんじゃない、けど…」


 千堂の言葉が胸に突き刺さり、返事がどもってしまう。図星だった。


「信じることだろ、お前にできることは」


 信じる、そのたった一言が俺に重くのしかかった。彼女を信じる、それは自分に自信を持つことと同じような意味を持っている気がして、とてもできる気になれなかった。


 双葉と付き合って二か月が経つ。しかし、あの日から俺はなにも変われていない。彼女に好かれるように努力することも、彼女にふさわしいように自分を磨くこともしていない。それは偏に俺を好いてくれている彼女への甘えだった。


 俺の双葉への甘えは大きな不安となり、今になって返ってきた。

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