第二話 寂れた始まり
雨に降られるかと思っていたが、思いのほか空に雲はかかっておらず、修学旅行は初日から天気に恵まれることとなった。とは言っても、まだ香川を発っていないので関係のない話ではあるのだけれど。
今は午前の七時過ぎ。普段ならばまだ寝ている時間だが、今日は修学旅行の六時集合という過酷なタイムスケジュールのせいで眠気まなこを擦りながら、空港のロビーで羽田行の飛行機を待っていた。
学校の体育館で開式のセレモニーを終え、バスで高松空港へ行くまでは眠気など忘れて、修学旅行の何が楽しみだと友達と大盛り上がりしたが、一時間ほどバスに揺られ、その高揚感が完全に消え去ってしまった今、修学旅行を余すことなく楽しむため瞼を閉じないようにするので精いっぱいになってしまった。
生徒の半分弱が俺と同じような状態になっているらしく、目薬を差しているやつやうなだれて寝てしまっているやつが見えた。
そんなやつらがいる中で、なぜかとびきりテンションが高くうるさいのはいつだって女子だと思う。俺の学校も他に漏れずそうであったらしい。
ってか、マジでうるさい。起きていたいとは思うけど、だからといって眠い時に周りで騒がれるのは嫌なんですけど! と言いたいところだけど…
「やばいって、双葉! 目元にクマできてるよ!?」
「え!? マジで!? うわー、どうしよ…」
それが自分の彼女だったとき、あなたはどんな感情を抱くでしょうか?
そこで不満を本人にちゃんとぶつけられるってやつはすごいと思う。俺には到底できることじゃない。そもそも、うるさかったのが彼女だったことが分かり、何とも思わなくなってしまった俺は双葉にいつの間にか陶酔してしまっているのだろうか。
なんにせよ、生徒たちは各々なりの過ごし方で待ち時間を潰していた。
「暇だしなんかしようぜー…」
「なにかって、なにするんだよ…」
俺と一緒に同じベンチに座っている端島が気だるそうに言った。
さっきから二人で延々とこんな無意味なやり取りを続けている気がする。なにかしようといいてなにかするわけじゃないし、なにか楽しい話題があるわけでもない。
「それはあれだよ、お前が考えるんだよ」
「なんで俺が考えなきゃいけないんだよ、俺別にお前となんかしたいわけじゃねえし」
「は?」
「あ?」
突然衝突が起き、俺と端島の間に火花が散る。
最近思ったが、俺も端島もかなり短気だと思う。端島は根っからの喧嘩屋みたいな性格だし、俺は俺で気に食わないことはとことん気に食わないと思ってしまう節がある。だからいらっとしたら態度に出すし、ガチギレすることはなくても怒りの沸点は低い方だ。(ただし、彼女を除く)
まあ、ここまであけすけに態度に表すのは端島にだけなんだけど。
そんな風に、盛り上がると思っていた修学旅行の前哨は、思いのほか気の抜けた者になってしまった。
しかし、この時にはまだ、これからの三日間に待ち受けているものがどんなものなのか、分かる由もしなかったのである。
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