第五話 下がり気味

 無視をし続けていると、端島も興が覚めたのか、別の話をしだした。


「そういえば、もうすぐバレンタインだなー」

「うん、まあ、そうだね…」


 端島の言う通り、もうすぐでバレンタインだ。


 この学校はバレンタインに関してはとても寛容で、普段持ち込みが禁止であるお菓子類もこの日だけは持ち込みが黙認されている。いや、教師陣も巻き込んでいるから、黙認とは言い難いかもしれない。

 ともかく、バレンタインの日は学校中どこもかしこもお祭り騒ぎで、浮かれに浮かれている。


 しかし、俺はあまりテンションを上げることができなかった。


「なんだよ武野、テンション低いな。毎年たくさん貰えるくせに」

「いや、貰えるからこそ嫌なんだよ…」


 俺はモテるからというわけではなく、女友達が多いという点で、毎年十数個のチョコが貰える。確かに、ありがたいといえばありがたいのだけれど…量が多くてむつごくなってきて、しかも、お返しにかかる費用が高くなるからあまり嬉しくはない。


 女子が作る一つ一つのチョコにほとんどお金がかけられていないのは知っている。だけど、俺は母親から毎年言われている「男なら三倍返し」という教えを守るべく、毎年四百円くらいのお返しを買うのだ。

 この時期になると、せっかく貰ったお年玉が飛んでしまう。


 そんなこともあってか、俺はバレンタインに対してあまり前向きになれなかった。

 端島はあれだけテンションを上げて聞いてきたのにも関わらず、俺と同意見だったようで、こくこくと頷いた。


「その気持ちはわかるわー。だいたい、男子より女子の方が貰える量多いし」

「それな」


 昨今のバレンタインは、男子にチョコをあげる日ではなくなっていると思う。そっちより、女子の友チョコの方が盛んだ。

 双葉なんかは毎年三十個くらいのチョコを貰うらしい。本当に異常だ。


「あー…なんかテンション下がってきた」

「そりゃよかった。面倒臭くなくなる」


 俺が言った軽口を、端島が拳で返してくる。

 昔はわくわくが止まらなかったはずのバレンタインは、今年はローテンションで迎えることになりそうだ。


 そして、月日は巡ってきたのである。

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