第七話 説明を

「あー…まあね!」


 双葉は前髪をかき分けながら、堂々と言い放った。

 俺は思わず笑ってしまった。


「まあねってお前…」

「彼氏はいた。でも、好きなのは武野だった」


 チョット、ナニイッテルカヨクワカリマセン。


「その間、付き合ってたやつらは皆好きじゃなかったってことか?」

「まあ…だいたい、あっちが遊びのつもりで告白してくるんだから、こっちも遊びで付き合ってやるよね」

「いや…その中にたぶん、本気のやつだっていたと思うけど…」

「ってか、だからこそ別れたっていうか…全員、その、アレな感じだったから…」

「…ああ」


 そう言われてしまうと、俺としてはなにも言うことができなくなってしまう。今までの人たちは、双葉が嫌がるようななにかをしてくる人たちだったのだろう。双葉が言っていることが本当な保証はないが、嘘を言うやつでもないと思うから、きっと本当のことなんだろうな。


「学生でもそういうのあるのかよ…」

「あるよ!」

「怖いな…それは」

「それと、ここ一年くらいは作ってなかったし!」

「ああ、そういえばそうだな」


 双葉の言う通り、最近は彼女についての噂を聞いていなかった。俺は校外の人とでも付き合いだしたのかと思っていたけれど。

 しかし、双葉からそんな話を聞くと怖くなってくる。三か月続いたことないという伝説を持つのだ。自分でそれ以上続くとはとても思えない。


 思い切って双葉にそう言うと、彼女は笑って言った。


「大丈夫だよ」

「そうか?」

「うん。だって、その、武野のことは、ずっと想っていましたから…」


 だんだんと俯きがちになりながら、双葉は俺にそう言ってくれた。

 恥ずかしいのが伝わってきて、こっちまで恥ずかしくなってくる。そのせいか、俺は自分の耳が真っ赤になっているのを感じた。


「今までの人たちは、『結局、武野がいるし』ってことで別れてきたけど…武野は違うし…」


 ここはきっと喜ぶところなのだろうけど…今までの彼氏の人たちが不憫だ…。

 もし俺が第三者の立場だったなら、そんなやつあり得ねえ、別れた方がいいと思うかもしれないけれど。当事者だからなのかどうかは分からないけれど、不思議と嫌悪感は一切なかった。


 だって、本当に短い間だけど、どれだけ俺のことを思ってくれているかは伝わって来たから。


「でも、なんでよりにもよって俺だったんだ? 他にいいやつたくさんいただろ」

「…それ、いろんな人に言われるけど、逆になんでって思う」

「なんでってお前…」


 あまりにも当然のように言うので、俺は一瞬たじろいだ。まさか、こんな返事が返ってくるとは夢にも思っていなかったからだ。双葉はいつも俺の予想をはるかに超えてくるな…。

 本当に疑問そうな表情を浮かべている双葉に、俺は並べられるだけの自分の欠点を上げてみた。


「ほら、俺ってあんまり話してても楽しくないだろ?」

「そうかな? オレは楽しいけど」

「いじられキャラだし」

「そうだね、よくいじられてるし。ドンマイ! でも、あんまり気にしたことなかったな」

「別に性格がいいわけじゃないし

「そう? 優しいと思うけど」

「運動とか勉強ができるわけでもないし」

「オレよりはできるでしょ」

「あ、なによりブサイクだし!」

「オレは好きだけどなー」


 駄目だ。俺には双葉を説き伏せることができない…!


 恋は盲目というけど、彼女の目の前にはフィルターでもかかってるんじゃないかと思う。じゃなっかたら、こんなこと言うはずないし…。


「俺を好きになるって、お前の感性おかしいよな…」

「よく言われる!」


 よく言われるのか…。


 元気よく彼女が発した言葉で、ふいに俺の心にぐさりと剣が刺さった。

 やっぱり予想できない…。

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