第四話 バレる
「あ」
「あ…え!?」
驚いている…というより笑っているこの女子は
ルックスに関して特筆すべきところはないと思う。特徴を挙げるとすれば、メガネ、ポニテ、小柄と坦々としたものになってしまう。
話していると面白いやつで、彼女の恋愛に関するエピソードが特におもしろい。いつも学校のイケメンに恋をしているのだけれど…残念ながらその恋が実ったことはない。
所属している吹奏楽部の練習の帰りなのか、制服を着ていて、もう一人女子を引き連れていた。
俺はこの状況に内心焦っていた。
実は、俺と双葉である約束事をしていた。それは、できる限り付き合っていることを公言しないことだ。俺は、今まで彼女ができてからかわれている男子を何度も見てきた。言わば、「幸せ税」というやつで、付き合ったら必然的についてくるものだとは思う。でも、俺はそんなことでからかわれるのは御免だった。たとえいじられキャラだとしても、嫌なものは嫌なのである。
双葉もあまり人には言いたくないという気持ちは同じだったらしく、すんなりとその約束事は生まれた。
しかし、今、俺はデートしているところを見られてしまった。
この状況、一体どうすればいいんだよ…。
クレープを片手に、俺がだらだらと冷や汗をかいていると、ついに生駒が俺たちに声をかけてきた。
「え? 二人ともデート?」
生駒の表情は満面の笑みである。どうやら、おもしろくて仕方がないらしい。こっちはなんにもおもしろくねえよ!
ともあれ、どう答えたものかと頭を必死にめぐらせていると、俺よりも先に双葉が生駒に答えた。
「うん、そうだよ」
え、えー?
言っていいの?
あまりに堂々とした回答に、俺が拍子抜けしていると、続けざまに言った。
「え、じゃあ、双葉って武野と付き合ってんの?」
「うん、そうだよ」
双葉はなんでもないようにそう頷いた。
えー? それも言っちゃうんですか?
言ってよかったんですか?
俺は、焦りを見せたのが馬鹿みたいに思えてきて、全身の力が抜けていった。その間にも二人の会話は続いていた。
「いつからいつから?」
「二十八かな」
「へ~、じゃあ最近じゃん、おめでとう!」
「ありがとう!」
「あ、それじゃあ、邪魔かもしれないね。私たち帰るわ。武野も、じゃあねー、お幸せにー」
「バイバーイ」
「おう…」
そう言い残して生駒は、友達を連れて商店街へと去って行った。
なんか俺だけ疲れたな。
「にしても、こんなところで生駒に会うとは思ってなかったな」
「そうだねー、ま、うちの生徒だし」
「そうだな」
俺たちの学校の生徒は、なぜか皆同じところに集まって遊ぼうとする修正みたいなものはある。出かけたが最後、絶対にうちの生徒と巡り合うのだ。
「ってか、お前、さっき付き合ってるって言ってよかったのかよ?」
俺がそう聞くと、双葉はハッとしたような顔になって、笑い出した。
「あっはっは、忘れてた!」
「忘れてたって…」
普通忘れるだろうか、これくらいのこと。
俺はその答えに何だか肩透かしを食らってしまって、思わず笑ってしまった。
なんだか、双葉の笑顔を見れただけで、なぜだか幸せな気分になった。こんあこと、今までにもいくらでもあっただろうに。
俺は最後のクレープの一欠けらを頬張り、包んでいた紙をぐしゃぐしゃに丸めると、大きく背伸びした。
「あー、食った食った! …って、ん?」
伸びをして下を向いてみると、なにやらズボンに違和感を感じた。青いジーンズのはずなのに、右足のあたりに茶色いシミがついている。
まさか、これって…。
「やば、チョコレートソースこぼれてた…」
「ぶはっ!」
俺の悲哀に満ちた呟きに、双葉は盛大に吹き出した。
どうやら、包み紙の底からチョコレートソースが漏れ出ていたらしく、ズボンには大きなシミができていた。
「ごめん、もう一回ティッシュ貸してくれない?」
「いいよ、いくらでもあるから。ティッシュ配りの人がいたら絶対もらうようにしてるから」
何故に。
双葉のその行動には疑問を覚えたが、とりあえず彼女からティッシュを頂戴して、俺は応急処置を施した。
俺の初デート、初めからこんなんで大丈夫なのだろうか…。
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