第十一話 告白





「好きです。付き合ってください」




 告白された。




 そう、一言で言ってしまえば、何と簡単な言葉なのだろうか。


 しかし、一言で言ってしまうには、どれだけ重い言葉なのだろうか。


 俺――武野遙々の十五年の生涯で、こんな経験は初めてのことである。したことはあっても、されたことは今まで一度としてない。

 普段ライトノベルで読むような、甘酸っぱいものじゃないんだな、というような極めて場違いな感情はある。そのくらいの余裕はある。やはり、するのとされるのでは、精神的に大きな差があるのだろうか。


 でも、そんなことはどうでもいい。今はそんなことを気にしている空気ではない。


 彼女の気持ちに答えを出さねば。その勇気に対して、曖昧さの欠片もない、明確な答えを返さなければ。


 俺は緊張に顔を赤く染めた彼女に、あらかじめ決めていた答えを告げたのだった。




「…俺でよければ喜んで」




 深々と頭を下げてきた双葉に対して、俺は同じように頭を下げた。


 そして、お互いに顔を上げると、二人で笑い合った。


 誰も喋ろうとせず、辺りに沈黙が流れる。すると、突然。


「ふっ、ぐす…」


 双葉が笑顔を崩すようにして泣き出した。最初は、ぽろぽろとこぼれてくる涙を指でふき取るだけだったが、次第にその量は多くなっていって、最後には手で顔を覆うほどになってしまった。


 俺は困惑した。なぜ、泣き出したんだろう。俺は、なにか彼女を泣かせるようなことをしてしまったのか?


「武野」


 俺が何も言うことができず、ただ目を白黒させていると、一香が俺に声をかけてきた。


「ちょっと外に出てて。後で呼ぶから」


 俺は一香のその言葉にただ頷くことしかできなかった。


 外は少し風が吹いていて、コートを着ているのにもかかわらず、凍てつくような寒さに見舞われた。


 俺は、壁にもたれかかりながら、双葉が泣き出した時を思い出す。


 なぜこうなってしまったのかわからないことが、俺にはひどく最低なことに思えて、俺はやるせなさを白い息に乗せて吐き出すのだった。

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