第14話 選抜試験


 午後になり、冒険者の選抜試験が始まった。



 受験者は各役職ごとに分かれ、それぞれ試験会場へと向かう。


 剣士や槍兵、弓兵などの役職志望者は屋外へと出ていく。琉斗たち魔法職志望者はギルドの二階へと移動した。

 そこでさらに攻撃系と支援系に分かれると、琉斗たちは広い一室へと通された。




 そこは、一見すると漫画などで見かける射撃訓練場のような部屋であった。

 衝立で仕切られただけの簡素なブースが八つあり、その向こう側には何やら台座の上に透明な石が置かれているのが見える。

 攻撃系魔術師志望者は琉斗を含めて十四人。そのうち、毎回三割程度が試験に合格するという。


 試験監督であろう男が、試験の説明を始める。


 試験内容は実に単純であった。あのブースから、台座の石を目がけて得意魔法を放つ。ただそれだけだ。あの石が魔力に反応するらしい。

 試験には最も基本的な魔法である初級魔法を使うようにと言った後、試験員は自信がある者は一段上の下級魔法を使ってもいいと付け加えた。


 試験自体はそれで終わりなのだという。魔術師は基本的に魔法の適性があるかどうかが合否の基準となるため、試験自体もすぐに終わるのだそうだ。結果も即日発表されるらしい。


 結果がすぐわかるのはいいことだ。最近は入試でも即日発表する学校が増えていると聞く。合格発表まで待たされるのは、鍋の中でことこと煮られるような辛さがある。

 まして、今回は合格がほぼ確実と言っていいはずの試験だ。さっさと発表してもらえるのならありがたいというものであった。




 説明が終わると、さっそく試験が始まる。


 まず最初に七名の受験者が、ブースに入って待機する。それから、試験員が術を放つよう指示を出す。


 その指示に、受験生が一斉に呪文を詠唱し始める。それだけで、琉斗には彼らの魔力の大小がおおむね把握できた。

 右から二番目の男の魔力が特に大きいな。そう思った琉斗は、彼の魔法を参考にすることに決めた。


 詠唱が終わり、受験生が石を目がけて術を放っていく。


 魔法が命中すると、石がぼうっと青白く光る。魔力と反応して光っているのだろう。そのほとんどが、心細くなるほどに弱い光を一瞬発するのみであった。


 と、右の方で他とは明らかに異なる魔力の波動を感じる。視線をそちらへと向けると、先ほどの少年が術を完成させたところであった。

 少年の手のひらから、赤子の頭ほどの大きさの火球が放たれる。それは台座の上の石に命中し、他の受験者とは比較にならないほど明るい光を放った。


「す、凄い!」


「あれは本当に下級魔法なのか!? そこらの中級魔法くらいの威力はありそうだ!」


「さすがはミューラーだ、俺たちとは次元が違う……」


 受験者の間から、驚きの声が上がる。見れば、試験員たちも納得するかのようにうなずき合っていた。

 そう言えば、さっき魔術師の名門がどうだという話をしていたことを琉斗は思い出した。おそらく彼がそうなのだろう。


 彼の魔法を参考にすれば、試験に落ちるということはなさそうだな。


 とりあえず、琉斗は彼を手本にすることに決めた。




 ざわめきもまだ収まらない中、受験者の交代が指示される。琉斗は指定されたブースへと入る。

 前を見れば、台座と透明な石が見える。石はともかく、台座はさほど丈夫な造りには見えない。


 この前魔物に放ったような魔法は使えないな。琉斗は苦笑する。

 あんなものを撃てば、台座どころかこの部屋自体が無事では済まないかもしれなかった。あくまでここは受験者の力を見極めるために造られた施設なのだ。


 試験員の開始の合図に従い、琉斗は魔法の準備を始めた。先ほど見たミューラーという少年の魔法をイメージし、火球の大きさや魔力を調節していく。

 まあ、こんなものか。おおよそ先ほどの魔法と同程度の火球を手元に出現させると、琉斗はそれを無造作に石へと向かって投げつけた。


 火球は石に命中すると、魔力と反応して青く輝く。

 うん、光り具合もさっきと同じだ。琉斗は満足の笑みを浮かべる。


 次の瞬間、琉斗の背後から驚愕の叫びがぶつけられた。


「ば、馬鹿な!? 信じられん!」


「何者だあいつ、ミューラーと同じくらい光ってるぞ!?」


「違う! 問題はそんなことではない!」


 試験員の一人が怒号にも似た叫び声を上げる。


「彼は、あの魔法をで放ったのだ! いったいなぜ、まだ冒険者にすら登録されていない彼にそんなことができる!?」


 その言葉に、琉斗はしまった、と顔をしかめる。

 言われてみれば、他の受験者は皆呪文を詠唱していた。呪文など琉斗は知らないが、形だけでも真似をしておくべきだったか。


 だが、どうやら皆の反応を見ていると、そんなに心配する必要はないように見える。

 もし無詠唱が試験のレギュレーションに反するのであれば問題だが、どうも無詠唱で魔法を使うこと自体が想定されていなかったようだ。ただ単純に、まだ未登録の冒険者志望者が無詠唱で魔法を放ったことに驚いているというだけなのだろう。




 しばらくざわついていた会場であったが、やがてそれも落ち着き、試験の終了が告げられる。

 合格発表は一時間ほど後ということで、解散すると琉斗は再びギルド近くの露店へと足を運んだ。


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