第3話 初めての戦い
二体の巨大な魔物を前に、琉斗は臨戦態勢に移る。
魔物たちは舌なめずりしながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
そこに警戒心は微塵も感じられない。目の前の哀れな獲物が自分に抵抗してくることなど、欠片ほども考えていないのだ。
迫りくる怪物を前に、琉斗はどうやって戦おうかと考える。手元には剣もあるが、ここは魔法を試してみるとしようか。
そう決めた琉斗は、蜥蜴(とかげ)の魔物へと視線を向けた。敵は虎のような頭をこちらへと向けながら、のそり、のそりと四本脚を動かす。
どの属性の魔法にしようかと考え、琉斗はすぐに火炎系の魔法を試すことに決めた。何となく、火炎魔法は攻撃魔法の基本であるような気がしたのだ。
自分の力量も相手の力もわからない以上、手加減などは考えない方がいいだろう。だが、その反面、うかつに力を使うのも危険だと琉斗は思った。
何せ、『声』によれば、今自分に宿っているのはかつてこの世界を滅ぼしかけた化物の力なのだ。万一、全力で攻撃したら大陸ごと吹き飛んだ、などということにでもなれば、もう目も当てられない。
絶妙な火加減が求められているな、などと思いつつ、琉斗は右手に意識を集中させていく。
魔法の放ち方は、どうやら身体が知っているようだった。右手に何かが流れていく感覚がある。これが魔力の流れなのだろうか。
右の掌を上にして見つめていると、その上に小さな炎の渦が現れる。
かと思うと、それはみるみる膨らんでいき、巨大な火球へと姿を変えた。直径は二メートルほどもあるだろうか。これほどの大きさであれば、敵の巨体を焼き尽すに十分であろう。
突如出現した巨大な火球を前に、魔物たちの足が止まる。目の前に立つ少年がただの非力な人間ではないことに気付いたのか、低い唸り声で威嚇してくる。
動きが止まった魔物に向かい、琉斗は目の前の火球を躊躇なく放つ。巨大な炎は蜥蜴に向かい真っ直ぐに飛んでいき、その身体を包み込む。
ゲエエ、と不気味な声を上げたのも束の間、火球は炎の柱と化し、蜥蜴の身体を容赦なく焼いた。周囲の空間が、陽炎(かげろう)のごとく揺らめく。
間もなく炎は赤い渦となって消え、後には魔物の骨とおぼしき物体が残された。恐るべき火力であった。
その壮絶な光景に、もう一体の魔物が明らかに狼狽の色を見せる。荒い鼻息とは裏腹に、身体はじりじりと後退を始めている。
このまま逃げるのであればそれでいいか、と一瞬思った琉斗だったが、ただちにその考えを撤回した。この魔物をこのまま野放しにしておくのはやはり危険だろう。
目の前の魔物を討伐することに決めると、琉斗は次に使う魔法を考える。
少しだけ考えて、琉斗は風魔法を使うことにした。火炎系と並び、攻撃には適した魔法だと思ったからだ。
すでに及び腰になっている巨大な牛型の魔物に、琉斗は右手を突き出す。恐れをなして逃走しようとした魔物の周囲を、突如出現した竜巻が包み込んだ。
竜巻は魔物の巨躯を軽々と浮き上がらせる。五メートルほども浮き上がったところで上昇は止まり、魔物の身体は空中で静止した。その口から、悲しげな呻き声が漏れる。
琉斗が突き出した掌をぎゅっと握りしめると、無数の風の刃(やいば)が魔物を球形に包み込み、その身を容赦なく切り刻んでいく。肉片と血しぶきで、風の球体がみるみるうちに赤く染まっていく。
あれほど巨大だった魔物の肉体はもはや原型を留めないほどに刻まれ、すでにただの肉塊と化していた。
やがて刃は消滅し、細切れになった肉がぼとぼとと地面へ落下していく。
全てが終わり、後には焼けて今にも崩れ落ちそうな魔物の骨と、切り刻まれた大量の肉塊だけが残された。
「ふう……」
琉斗は一つ息をつく。
不思議なことに、これほど壮絶な光景が目の前で展開されているにもかかわらず、琉斗の心はほとんど平静を失わずにいた。
思えば、あんな見たこともない化物に遭遇したというのに、なぜこんなに冷静でいられるのだろう。自分は人並みに恐怖を感じるタイプの人間だったはずなのだが。
これも龍皇の力を得た影響なのか。明確な殺意を前にしても恐れを感じない。
否、それどころか闘争への欲求すら湧き上がってきたように思う。
自分の内面の変化に幾ばくかの戸惑いを覚えながらも、琉斗は自分が得た力に満足していた。
信じられないほど巨大な怪物たちを、まったく問題にすることなく退けた自分の魔法。
本当に、自分はとんでもない力を手に入れたのだな。
自分の掌をしばしじっと見つめると、琉斗は再び町を目指して森へと歩き始めた。
『
『冥殺炎球』
燃え盛る巨大な火球によって対象を焼き尽す烈級魔法。中位の炎龍種が放つ火炎に匹敵する威力を持つ。
『旋刃乱舞』
荒れ狂う風の刃で対象を包み込み、原型を留めぬほどまで切り刻む烈級魔法。中位の風龍種が操る旋風に匹敵する威力を持つ。
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