9-ストーカー


僕が会社をやめた直後、社長宛に一通の封書が届いた。

内容は僕と部長と副部長と仲が良く、副部長とはできているんじゃないかというものだった。その事実はもちろん無根だが、それより、その内容が詳細すぎたのだ。確かに二人とは仲良くしていた。飲みにいったり、ゴルフにいったりとプライベートでも付き合いはあった。その投書には、日付、時間、回数。二人を僕の自宅周辺で見かけたであろう状況が、事細かに記されていた。僕は、そのころ会社をやめていたので正直、関係のない話だったが、二人は上層部から聞き取りをされたそうだ。その内容を聞かされた僕は、一気に恐怖を覚えた。僕の家を見張ってないとわからないようなことばかり書かれていたし、もう一つ僕たち数名のドライバーしか知らない仕事内容の詳細まで知っていた。非公開の話だったので、関係者しか知らなかったけど、なぜかその人も知っていた。

これはあとから謎が解けた。


それからというもの、家の外に出るのが怖くて仕方なかった。仕事をやめてから、次の仕事まで半月ほど時間があったけど、その恐怖におびえていた。

そして、出社日。

1日目は無事終えたのだが、翌日。人事部から呼び出された。なにかと思ったら、前の会社に届いた投書とほぼ同じ内容のものが届いていたのだ。もうストーカー以外のなにものでもなかった。その日は早退。

そして、僕はもう家からでることができなくなり、たった2日でやめた。

それだけで?と思うかもしれないが、一挙手一投足監視されているんじゃないかと思う内容で、後日警察にも届けた。そして、僕は生きている心地がしなくて、また心が壊れるんじゃないかと不安になって、リストカットをしてしまった。不安で夜も眠れないほどだ。僕の精神安定剤みたいなものだった。


あとから思い出したのだが、ある日帰ると家の鍵が開いていた日があった。もしかしてと思って、友達にきてもらい、盗聴器発見器を家中やってみた。あった。盗聴器。これだ。これのせいで、仕事の内容まで知っていたんだ。とそのときわかった。しかし、決定的な証拠はなく、その上司が罰を受けることもなく、警察に呼び出され、厳重注意ですんだそうだ。でも、もう怖くて常に誰かに監視されている恐怖は、そんなすぐにぬぐえなかった。そして、心配をかけるからと思い、家族にも誰にも言っていなかったんだが、さすがに仕事もやめてしまったし、言わないわけにいかず、母に話した。そして、引っ越すことにした。


そして、縁もゆかりもない場所に。でも、引っ越してもやっぱり、怖かった。いつか突然現れるんじゃないかと思った。引っ越しと同時にまた仕事を探していた。仕事も見つかり、引っ越しも終わって、ひと段落。まさか、僕がストーカーにあって、こんな思いをするとは思わなかった。でも、この恐怖が薄れるには1年はかかった。

そして、新しく入社した会社だが、1ヶ月もしないうちにやめることになる。

僕が入社して、半月くらいしたときに監査が入った。それに、引っかかったようで営業停止。営業再開できるような状況ではなかったので、辞めた。どうしてこうも次から次へとなにかが起きるんだと思いながら、まあ仕方ないと思い、また就活。


でも、やっぱり配達の仕事がやりたくなって、前の仕事に戻ることにした。

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