2-”僕”の初恋と葛藤


中学に入ってもスポーツが好きだった僕はなにか部活に入ろうと思っていた。

あの時始めたサッカーは、クラブチームで続けることにしたが、練習がない日があり、退屈だし体がなまるのがいやだったのでどうしようか迷った結果、それならサッカー部がいいと思いサッカー部に入りたいと先生たちに相談した。

でも、惨敗。

いろいろ理由は言われたけど一言でいえば、女だから。

今までいたことないからとか部室をどうしてあげたらいいかわからないとか・・・。中学生になって、初めてはっきりと女と男の差を感じた瞬間だった。

競技的にも女子サッカーは今のように普及していなかったのもあると思う。

そのときは、諦めるしかなかった。違う部活を探して、ソフトボール部に入ることにした。父が野球好きで、その影響で僕も野球が好きだった。

この選択が僕の世界を少しだけ広げてくれることになる。


毎日制服と戦いながらも、部活にサッカー、なんとなく勉強をして忙しい日々を過ごしていた。特に変わり映えしない毎日だったけど、充実していたと思う。そんな時だった、あのことを知ったのは。僕が入っていたソフト部は強豪で県大会上位の常連、過去には関東大会にでたこともあった。だから、他校との交流も多くて、たくさん友達ができた。やっぱりどのスポーツ界にも一目置かれる存在がいるけど、ソフトボールの世界にも存在した。そのうちの一人には噂があった。

その人には彼女がいると。

その話を詳しく聞きたかった。その後、僕の部活の先輩が友達だという情報をゲット。こんなチャンスはないと思い、聞いてみようと思ったら、すでに部活内で噂が流れていて、聞くまでもなかった。その人に彼女ができたのはこれが初めてではなく、ソフトボールの世界でも部内恋愛などがあるということを知った。

そのときの僕には、とても新鮮で、そんな世界があってもいいんだと知ることができて、ものすごく嬉しかったのを覚えている。


そして、僕にも胸を躍らせる出来事があった。

ある大会で「よかったらメールしてください」と手紙を渡された。

初めての出来事に驚きだったけど、嬉しい以外のなにものでもない。それにかわいい子だった。その夜、僕は連絡してみた。すぐに返事は返ってきて、それから毎日のように連絡をとるようになった。毎日メールが待ち遠しかった。周りの友達は、彼氏がとか彼女がとか言っていたけど、自分自身がなにであるかわからない僕には、少しだけ遠い話のような気がしていた。だから、この子と連絡を取るのはものすごく嬉しいことではあったけど、とても複雑な気持ちでもあった。

でも、一つ言えたのはその子の特別でありたいと思うようになっていた。

だから、僕は決心した。“好き”とか“嫌い”とか“付き合う”とかそんなのはよくわからなかったけど、今僕がその子に思っていることを伝えようと。

そして、ある日僕はメールで思いの丈をぶつけた。

「君の特別な存在になりたい」。

彼女の返事は「わたしにはわからない世界だから」だった。

それまで彼氏もいなくて、「かっこいいね」や「好き」という言葉をかけてくれていたのに、突如その言葉を突き付けられ、その数日後には「彼氏ができたから」と言われた。僕には理解できず、それ以来、余計に自分自身がわからなくなった。


やっぱり僕は人と違うし、なんかおかしい。病気なんじゃないかと思うようにもなった。でも、解決する方法もなかった。毎日、鏡に映る自分の体はだんだんと女性になっていくことに目も背けられなくなっていくし、いつか小さいころに思い描いていた体とは大きくかけ離れていくことに、心が追い付かなくなっていった。だから、きっと僕が思っていることはおかしいんだ。それなら、自分は女として生まれたんだから、女の子になる努力をしよう。努力して少しでも近づければ、この葛藤もなくなるし、体の成長も受け入れられるんじゃないかと考えるようになった。

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