【魔女は過去を気にしない】
「いつも宿帳に二十歳と書いているがお前はいつ年を取るんだ?」
「覗くなんてエッチだなぁ」
「ば、馬鹿者っ! お前が記帳するときいつもカウンターの上に乗せるから見えるだけだ!」
「誕生日もあやふやだし多分二十歳くらいだと思うから、つい面倒で」
「何だ、その理由は?」
「寒い冬の日に施設の前に置き去りにされていたからはっきり分からないんだよね。身体つきから大体二歳くらいだろうって。言葉も話せなかったから、イヴェールっていう名前も年齢も施設の人が付けてくれたんだ」
「だから、
「しばらくして私の体温が異常に低い事に気付いて、調べたら魔法使いだって分かった。私に直に触ると凍傷みたいになっちゃうから隔離されちゃったけど、売られることもなかったし本当に良くして貰った。十五歳になって施設を出てからは魔法使い狩りにあったり人攫いに捕まったり奴隷市場に出されたりとちょっと大変だったけどね」
「――お前があまり動じない理由が分かった気がする」
「ずっと独りだったけど今はアヴァナスがいてくれるし、すごく幸せなんだよね」
「ふん。おめでたいヤツめ」
「アヴァナスといっしょに寝ると温かいから寝付きが良くなったんだよ。それまでは自分の魔力で凍死しかけたこともあったし」
「ランタンを抱いて寝るなんて普通はしない。人の姿なら違和感なく温めてやれるが?」
「それはいい」
「悩むふりもしないんだな――お前くらいだぞ、あの姿を嫌がる人間は」
「嫌がっている訳じゃないんだけど、誰かに触る事も触れられる事も慣れてないし、怖くて」
「忘れているかもしれないが俺は炎の悪魔だ。貴様如きに触られたくらいで脆弱な人間のように凍傷にはならないし、弱らない」
「でもまだ完全じゃないでしょ? 見つけた時なんか雨粒一つで消えそうな種火だったよ」
「くっ――まだそれを言うんだな」
「このランタンに入っていればアヴァナスの魔力は回復するし、私も気兼ねなく触れるしどっちもお得だよね」
「――俺が触れない」
「うん? 何か言った?」
「気にするな。虚しい独り言だ」
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