我、勇者の魔王城へ

夢乃藤花

プロローグ

 

 綺麗に晴れた空、穏やかな川のせせらぎ、人々の笑顔。

そのどれもが、私にとってとても眩しく感じていた――


 些細な行いをするだけで皆が笑みを浮かべ、笑ってくれる。

それはとても喜ばしいことなのだろうが、私は何故か複雑な心持になり、未だに上手く笑い返すこともできない。


 こんなにも鮮やかな世界なのに、平和に見える世界なのに、どこかに穢れた面があり、苦しんでいる者たちがいる。 そしてどこかで今も、戦いは続いている。

私はその戦いを終わらせなければいけない。 この人間という種族を、救わなければいけない。


 なぜなら私は今、『勇者』だからだ。


 はぐれ者の魔族を殺すことも、困っている者に手を差し伸べるのも、まだ抵抗がある。

ここにきて、命というものを身近に感じることとなるとは...。


 こんな私の苦悩をよそにあいつはせいぜいあの椅子に座って楽をしているんだろうな...。


 魔界と言えど住めば都。

地熱で繁栄した温泉地帯、色とりどりの出店で賑わう城下町、個性豊かな魔族たち。

 あいつはそれらを治め、この人間界もろとも取り込んで統一しなければいけない。


 何故ならあいつ『勇者』は今、『魔王』なのだから――



 つまり、今話している私が、元『魔王』だ。


 何故こんなことになってしまったのか、私もよくわからない。

ちなみに、このことは私と勇者とあと一人を除いて、誰も知らない。

それ故に、私と勇者は現在の自分の役目を末等しなければいけない。


まあ、それを放棄しようと思えばそれも可能なのだが、それはそれで少し困った事になる。



 何故私たちがこんな面倒で前代未聞な事態に巻き込まれたのかというと、時は1週間程前に遡る...。

 

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