in the backstage─運命の刻─③

 二人の自分の前から消え去った女、その回想がまどろみとなって夢と溶け合おうとしている時、クロックの寝室の扉を何者かがノックした。

「……誰だ?」

「……あ、あのう」

 声の主はヘイローだった。

「……何だ?」

「あの……お酒をお持ちしましたぁ」

「……酒? お前がか?」

「はいぃ、私、ここにきてお役に立ってませんのでせめてこれくらいはとぉ……。」

「……分かった、入れ」

 小男のヘイローがトレイを持って入ってきた。目の周りにが目立つ、相変わらずの不健康そうな笑いを浮かべている男だった。ヘイローはナイトテーブルに酒瓶を置くと、不自然なほどくり返し頭を下げた。

「そ、それでは私はこれでぇ……。」

 ヘイローはすぐに部屋から出ようとした。しかし、思いのほかすぐに酒瓶を取ったクロックにヘイローは驚いたようで、その場でぴたりと立ち止まった。

「……まぁ、お前も飲んでいくといい」

「いや、はわ、私は結構ですぅ」

「……どうしてだ?」

 そう言って、クロックはヘイローに酒瓶を押し付けた。

「あの、その……私お酒が呑めませぇん」

 ヘイローは両手を小さく振りながら顔を酒瓶からそらす。

 クロックは鼻で笑った。そのクロックの表情をみてヘイローの顔が、元から病的な色だったが、さらに疫病に侵されたように蒼白した。

「まぁいい」

 クロックは酒瓶を自分の胸元に持っていった。

「へぇ?」

 クロックはほんの数秒間、物思いにふけった。

「……苦しむのか?」とクロックは訊ねた。

「……え、と、何の……ことだ……か」

 クロックは再び鼻で笑うと、瓶から直接口をつけて一気に酒を飲んだ。

「はうぁっ」

 ヘイローは驚いてその場から逃げていった。


 翌朝、クロックは遺体となって寝室で見つかった。

──

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