壁を奏でるは屎尿の調

 半月後、そこにはフロリアンズの娼婦として働くキャサリンの姿があった。初体験の相手も選べぬ娼館において、自分の意思で男を選んだと思ったキャサリンには悲壮さは見られなかった。それどころか、10代を半ばにして、一人前のファムファタールとしての自覚を持ちつつあった。

 そして今夜も、酒場で接客をした後、キャサリンは男と共に客室に消えていった。去り際に自分に目配せをしたキャサリンを見ながら、ティムは仲間とホールの隅でほくそ笑んでいた。


 ティムは屋敷の外にある手洗い場に、仲間2人を連れ立って行った。上機嫌に便器用の壁に立ち、自分の性器を誇示するかのように放尿し始めるティム。アルコールを大量に摂取したが故の、激しい勢いの尿が壁にぶつかった。

「いやぁ、驚きましたねあの娘。ティムさんの言うとおり大化けしましたよ」と、ティムの横で小便をする、赤毛のあご髭が胸元につきそうなほどに長い男が言った。

「言うたやろうが、あん娘は金の卵やっち」  

「で……あの、どうだったんすかね?」と恐縮そうににやけ,,,てあご髭が訊ねる。

「どうだったって、何がや?」

「そりゃ、あの娘の具合ですよ。初物だったんでしょ?」

「あ~それか」ティムは小さくその場で飛び跳ねて尿を切ると、にへらと笑って男を見た。「聞きたかか?」

「もちろんっすよ」と、後ろでティムが小便を終えるのを待っている、細身で頬がこけている別の仲間が言った。

 ティムはその男を振り向いて笑うと、ズボンを上げて前紐を結んだ。

「やっぱ十代の娘は違うわ。肌が手に吸いつきよる。匂いも甘か香りが体中から漂ってな」うっとりとティムが天井を見上げて言う。「ありゃあ麻薬や。ハメただけで俺まで若返った気がしよる」

「い~っ」と、興奮と嫉妬と羨望であご髭は奇妙な悲鳴を上げた。「俺、あんな若い子とやったことないんすよ。で、で、胸の感じはどうなんすか?」

「十代の女はなぁ、ちょいと胸の芯が硬いんや。皮膚も張りがあるせいで揉みごたえがなかけん、胸好きの奴にゃあ物足りんかもしれんが」

「そ、そんなもんなんすねぇ……。じゃあ、反応はどうだったんすか?」

「反応か? いやぁ~、あん娘、え~声あげとったぜぇ」

「痛がってなかったっすか?」

「そりゃ最初はな。でもな、ええこと体を慣らしてやったら、途端にあんあん言うて俺の体にしがみつきよった」

「ほへ~、処女なのに感じるんすか? 初めてってのは、女は痛いだけじゃ?」

「そりゃお前が下手くそやけんたい。上手くやってやりゃあ、初めての女でも感じるとぜ」

「う、上手くやるって……どうやって?」

 ティムは意味深に笑うと、舌を出してちろちろと舌先を動かした。

「……処女はじゃあ感じん。そげんは言っても指じゃあ痛か。じゃけぇ、を丁寧に優しく舐め回してやるったい。つついて転がして、たまぁにちゅーちゅー吸うてな」

 男たちは目を輝かせてティムの話に聞き入った。

「それで……。」とティムが言う。

「それで?」と男たちがハモりながら訊ねる。

「あん娘が俺ん技でとろ~んとしたところを……バ~ンよっ」と、ティムは腰をかくかくと突き出した。お~、と男たちが歓声を上げる。ティムは調子に乗って、腰をグラインドさせたり回転させたりして大笑いをした。

「……しかし、賭博の時はティムさんの事を毛嫌いしてたみたいなのに。やらせた上に惚れるなんて」と頬のこけた男が言う。

「女ちゃあそんなもんよ」とティムは言った。「どげん嫌がっとっても、一回やっりゃあこっちのもん。オマン×の中にスイッチがあるけぇ、そこをマラで一突きすりゃあコロリよ」

「勉強になるなぁ~」と、あご髭。

「まぁ、そうやって俺に惚れさせて、後はこっちの都合の良いように働かせて一石二鳥、俺も美味しかし店も潤う……と」

「なるほど~」と頬のこけた男が言う。「けどティムさん、店のコに手を出しちゃったこと、サハウェイさんにバレたらまずくないですか?」

「俺もそこまでアホやなかよ。じゃ」

「そうなんすね~。……ところでティムさん」とあご髭が言う。

「何やぁ?」

「あの娘にはティムさんは本気で惚れてるんすか?」

 すると、ティムは目を見開いてあご髭を見た。

「な、何すか?」

 ティムは男の頭をはたいた。小便をした後、洗っていない手だった。

「あいてっ」

「アホウっ、俺があんなガキに本気になるかいっ。ちょっとした火遊びよっ」

「そ、そっすよね~」

「めんどくそうなったり飽きたりしたらとっとと他の男を当てがりゃええんや」ティムは仲間たちに言う。「どうや? あん娘とやりたくなったら、俺がええようにとりなしちゃるぞ。俺のお下がりでもよけりゃな」

 男たちは良いんすか? と、軽く飛び跳ねてはしゃいだ。

「おう、ええよええよ、何本もくわえ込んだら、あん娘も夢から醒めるじゃろ。そん頃には単なる売女に堕ちちょるがな」

 肩を揺らして笑っていたティムだったが、突然真顔になって、手洗い場の扉を見た。

「……どうしたんすか?」とあご髭が訊ねる。

 ティムは扉に近づくと、取っ手を掴み勢いよく扉を開いた。廊下に顔を出し、周囲を見渡すティム。先ほどの笑顔は一切消えていた。

「……ティムさん?」

 ティムは手洗い場に戻って言った。「……何でもなか」

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