半醒半睡

クロサンタ

プロローグ

空は青い、辺り一面は白の世界だった。

白さ故の眩さと澄みわたる青い空はひどく淡く不確かな境界線を生み出している。

「――おや、お客さまですか。ようこそいらっしゃいました」

声が聞こえた方を見遣ると、いつからそこにいたのか白の中に一際目立つ黒い三本足の鳥がいた。

(――烏……?でも三本足……、あれ三本足の黒い鳥って何かで聞いたことがあるような……?)

何も思い出せない記憶にやきもきした気持ちを抱えるが、何もわからないこの現状に不思議と不安や懐疑心も浮かばなかった。

「ここは白い世界でしょう? でもよく見てください、この白さは花が生み出しているんですよ。辺りの白は和かな花、なんとも暖かい幻想的な世界でしょう?」

改めて刮目して辺りを見渡すと、確かに上から見る一面では隙間などないぐらいに敷き詰められた白の景色ばかりが見えるが下から覗いてみれば花には付き物の茎や葉の緑が白の中に浮かび上がった景色が写って見えた。

「さて、こちらに来たということは“物語”を聞きに来たということでしょうか?」

こてん、と首を少し傾げながら疑問符で問い掛けてくるも、こちらの返答も関係なしに口を開き言葉を続けて並べる。

「ふーむ、何をお話致しましょう」

傾げていた首を右に左にとゆらゆら揺らすが、何かを思いついたのかピタッと揺らすのをやめ一度だけ大きく頷いた。

「そうですね、とある少年少女の話をしましょう」

そう言ってこちらを真正面から見つめてくる。何も見えない深い二つの漆黒の眼が自分を射抜く様に見つめてくることが、表面だけでない自分を見られているようで畏怖の念を抱えた。

「この話は現実的であり、非現実でもあります。ただあなた様が現実的であるか非現実的であるかの捉え方によって、それは現実になり非現実になるのです」

「人というものは、たった一人の人に惑わされ翻弄される。実に不思議だと思いませんか? 同じ人である人に振り回され、振り回す。例えそれが故意にしたことでも自分で気づかぬうちにしたことでも。理不尽なことも時には道理として道が通ってしまう。見えているものだけが全てではないはずなのに、全てだと思い込んでしまう人の世の曖昧な感情。私はそれが滑稽に見えて仕方がないのです」

「……おっと、喋りすぎてしまいましたね。さて、私はただの先導者。あなた様を導くものです」

――バサッ!

目の前の鳥が両翼を広げると同時に上から赤い花が降ってきた。大きな翼は黒い黒い羽根に赤い花が降りかかる。



続けざまに紡がれた言葉は戸惑いを覚えるが、不思議と言葉の意味はスーッ、と一種の安らぎのように自分の中へと溶けるように消えていった。


白が赤に染まるほど薄れていく思考に前も霞んでいく。


「あなた様がみるものはどうか好きものでありますよう……この落ちてくる花が零れ幸いとなりますよう……」


薄れ行く景色の中聞こえる声。


――ただその言葉だけは胸がざわめいて焼き付いた。

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