第1964話:フース・ティレット~死後の安寧~

「あれ、ここが死後の世界? 生前の契約と違うな」

「ここは死後の世界ですがあなたが思っているような死後の世界ではないです」

「そうなのか!?」

「はい、ここは少し特殊なのですが、全ての世界の死者が訪れる世界です」

「ていうことは私がした契約はどうなったんですか!」

「何の契約かはわからないですが、特にあなたには利は無いです」

「そんなぁ……死後人格データを電脳世界にアップロードされて保険金を使って悠々自適な生活を何年も保証してもらえるようにしてもらっていたはずなのに……」

「多分あなたの人格は契約通りの世界にアップロードされていると思いますよ?」

「それじゃあ意味ないじゃん! 私がその世界に存在できなくちゃあさ

 !」

「うーん、言っては何ですけど、死後に人格データをアップロードされた電脳世界の方にはあなた自身は行けなかったと思いますよ?」

「どういうことだ?」

「えーとですね、生前のあなた自身の主観は死んだ時点で終了なんです。あなたは……わかりづらいかな、今ここにいるあなたと前の世界で契約を交わしたあなたには連続性は無くてですね、その、生前のあなたの記憶を持っているから生前のあなたから連続していると錯覚しているだけなんです。わかります?」

「わからない……」

「図にするとこうです、ここの線が生前のあなた、そしてここで終わりです」

「そこで死んだってことだな」

「今のあなたはその線とは全くつながっていません、この線の影から伸びているようなものです」

「うーん、つまり実感として過去の記憶を持っているがそれは記憶があるだけということか?」

「まぁそういうことです。そして電脳世界の方にアップロードされたあなたにも同じようなことが言えて、最後にバックアップしたなり遺体から抜き出したあなたの記憶を基に、シミュレートされたあなたが生活するだけということです」

「なる……ほど……?」

「まぁ生前の資産は引き継げないですが、この世界もまぁまぁ悠々自適に暮らそうと思ったら難しくないですし、どうです?」

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