第1940話:ミャール・スィン〜そこにいる〜
「そこにいるよ」
その一言を聞いて立ち止まる。
「何が?」
知らない人に突然意味のわからないことを言われて、立ち止まった上で振り返って詳細について求めるのはごく自然なことだと私は思ったが、意味ありげなことを言った当人は、少しだけ目を合わせたあとふいっと何も言わずに去っていってしまった。
何という不誠実な人だろうか。
向こうから声をかけておいて反応したら何も言わずに去っていく、これでは通り魔のようなものだ。
正々堂々名乗りを上げて話しかけて欲しい。
それはともかく、先程の人が言っていた「そこにいる」という言葉の意味を考える。
そこにいると言うからには、何かがそこにいるということなのだろうが、何かがいるようには見えない。
見えないなにかがいるからの忠告だったのだろうか、しかも忠告したということはいることに気付かずにそこを通ると何らかしらの不利益を被ることになるかもしれない。
他の道を通っても問題はないし、この道は避けるのが良いだろう。
あれは……さきほど声をかけてきた人じゃないか?
誰かと一緒に歩いている。
「さっきさぁ、通話中に関係ない人がいきなり返事してきて困っちゃったんだよね」と話している。
もしかしたら先程の「そこにいるよ」とは私に向かって何かがいると言ったのではなく、通話の先に対して「そこにいるよ」と居場所の肯定をしただけだったのではないか。
このタイミングで再び顔を合わせるのは気まずすぎるので、顔を隠しながらそそくさとその場を去ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます