第1925話:アメ・リュオー〜世界再創〜
「苦節12900年……、ようやく準備が整った……」
世界の仕組みをどうにか解き明かし、世界の始まりの観測に至るまでに8000年、そこから限定権能空間を用いてテストを成功させるのに4000年、理論を現実の上で組み上げ直すのに900年、それだけの時間を費やすことでようやく完成した。
「この世界の作り直しだ……」
誰もが死後に訪れることになるこの世界、どうにも複雑すぎるし、不条理なことが多すぎる。
死後の世界とはもっと単純で穏やかであるべきだ、ならばこの世界を作り直してしまえばいいのではないだろうか。
そう思い至ったのはもはや何千年前のことだっただろうか……
幸い私は生前に世界を作り直す大魔術を行使する機会があり、世界の仕組みさえ理解してしまえば世界の再構成は容易とも言える経験があった。
その日から私は世界の仕組みを読み解きはじめ、ようやくすべての準備が整った。
私が望む、全ての存在が穏やかに争うことなく暮らせる死後の世界。
今この世界に存在するすべての人は何者に対しても敵意害意を抱くことはなくなり、飢えることもなく、死ぬこともない。
永遠を幸福な微睡みの中で過ごす、そんな死後の世界を私は作る。
「術式、起動……!」
用意した呪文を読み上げて術式を開始、それにより発生する世界からの反応を見ながら値を調整していく。
私は時間のと空間の概念の外へ抜け、時代を遡る。
永遠とも一瞬ともつかない間を経て世界の始まりまで戻る。
「ここだ……」
ここで世界の有り様に任意の意図を組み込むことで世界を思いのままに改変することができる。
今用意されている概念式を読み、崩してはいけない部分を判断。
書き換えを……と手を伸ばしたところで気づく。
『世界を書き換えるな』というメモ書き。
世界の始まりの定義をしている概念式ではない、この時点からは遥か未来に当たる今使用されている共通語で書かれた平文のメモ……、いや、警告文か……
これはまずい、書き換えた場合、何が起きるか予測がつかない。
仕方なし、と何も書き換えることなく今へ戻る。
「っふぅー」と大きく息を吐き、体を落ち着ける。
想定外の事態は織り込み済みだった、しかし誰かからの警告とは、どうしたものかな……
再びあそこへ至るために必要なリソースを集めるのに2000年はかかるだろう、その間にあの文を刻んだ者がわかるといいのだが……
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