第1657話:ミチケ・フィルヴィド~木を切るな~

「木を切るなと言われてもね、私はこれで生計を立てているんだがね。なんだ、木を切らねば君が代わりに私を養ってくれるとでも言うのかね」

「いや、こちらとしては君には死んでもらいたいんだが……」

「え、なんで? 木を切ったから?」

「そうだ、木を切ったからには死んでもらう」

「それは困るなぁ」

「何が困るというのだ?」

「そりゃあ、俺だって死にたくはない。そもそも死ぬために木を切っていたわけでもない、どちらかといえば生きるために木をきってたわけさ」

「なるほどな、こちらは木を切ってもらいたくない、そっちは木を切りたい。その点で利益が相反しているというわけだ」

「確かに、そういうわけだがこんなに話の通じる相手だとは思わなかった……動揺している」

「いや、話は通じるが君の事情は関係なく死んでもらいたい。私としては木を切るやつに死んでもらうだけだからね。ただ、事情があるなら聞くよというだけの話さ。聞くだけだがね」

「聞くだけなのか」

「ああ、聞いてやる。話してみるかい?」

「いや、言葉よりもこっちの方が話が早いだろう?」

「お、その斧でどうしようというのだい? まさか、こちらを撃退するつもりじゃあないかな?」

「わかっているなら話は早い、生きるために木を切るのも、生きるためにあんたさんを切るのも話は同じってもんだ」

「なるほど、返り討ちにして殺しても、他の形で死んでもらっても話は同じと言うことだな。受けて立とう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る