第1644話:ディーレ・イヴ~脳内の狂騒~

 思考がクリアだ。

 いつもあった脳内の喧騒が凪いでいる。

 生まれ変わってからずっとそうで、調子はいいのに違和感がある。

 静かになって、クリアになった変わりに元よりも発想力が落ちた気がする。

 死んだときに何かが私の中から失われたのかもしれない。

 いったい何が失われてしまったのか。

 まだ死んでないという経験?

 しかし、死んだところで特に変わった意識なんてないように感じる。

 いったい何が……

 クリアになった頭で考えても何も浮かばない。

 そんなクリアな思考にも慣れてきたある日、人が訪ねてきた。

「あれ、私……?」

「私ね」

 聞けば、私はこの世界に来た時に分かれたらしい。

 死ぬ前に思考がクリアにならなかったのは、別の私が頭の中にいて、互いに騒ぎ合っていたからまとまらなかったということらしい。

 そういう場合、この世界に来る際にこのように分かれることがあるらしい。

「あなたも大変だったよね」

「本当に」

 とりあえず話会った結果、今夜は泊っていくが、この先同居をするということはないということで話がまとまった。

 お互い、死ぬ前は延々迷惑をかけあったのだ。

 死んで分かれた後まで近くで暮らして迷惑をかけあいたくはない。

 そして、一晩明けて朝、もう一人の私が帰る前に来客があった。

「私?」

「私ね」

「私ですね」

 確かに、あの狂騒は二人にしては騒がしい気はしていたんだ。

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