第1635話:サクル・フーギィ~宇宙海賊~

「おまえ、俺たちの仕事を言ってみろ」

 室内に緊張が走る。

 返答を間違えれば殺される、そういう空気だ。

「宇宙海賊です!」

 指示された奴が答える。

「……そうだ、俺たちは宇宙海賊だ!」

 一瞬顔をしかめて、その通りだと声を上げる。

「しかしどういうことだ! ここは山で、船を持たず、小屋に隠れてこそこそしている。どういうことだ!」

 明らかにイラついた様子で怒鳴り

「……それは、この世界には海が、宇宙がないからです!」

 少しの沈黙を挟んで一人が答えた。

「そうだ、船を沈められてクルー全員宇宙の塵にと消えたと思ったら、全員そろってこの世界だ。手ごろな港で船を奪って海賊業に返り咲こうと思いきや、この世界には宇宙がないと来た。そして、気づけばこうして言うなれば山賊の真似事だ。上も下も地面に塞がれて、そこに囚われている。ここは正に地獄だ」

 大地の表面に囚われ続けるだけでも屈辱なのに、地の底に囚われてどこまでも突き抜けた空はない。

 宇宙海賊の死後は無限の宙の中漂うことになり、二度と大地を踏むことはできないと聞いていたのに、これではあまりにも話が違いすぎる。

「船長、海で海賊をするというのはどうでしょうか!」

「馬鹿野郎!」

 怒声とともに瓶が飛ぶ。

「宙だけが俺たちの海だ! 大体、この中に海の船を操れる奴がいるってのか!? 波を読んで、風を読んで、いるかどうかわからねぇが海中で海獣を仕留められるやつがいるのか!? 俺たちの技術は、宇宙だからこそ活きたんだ……」

 この世界に来てからずっとこうだ。

 船長は荒れ続けている。

 どうにかして、宇宙に行くことができればいいんだが……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る