第1563話:アトレット・ダタイ~吸収合体~

「かくまってください!」

「お、おう?」

 家を出ようとしたところ、突然ずいぶんと切迫した様子の少女が飛び込んできた。

「今、追われてて、助けてほしいんですけど!」

「わかった、俺で助けられるなら助けよう、どういう奴に追われてるんだ?」

 ドアにカギを掛けて、かくまったうえで話を聞く体勢になる。

「私に追われているんです!」

 どういうことだろう、自分自身に追われているとは。

「落ち着いて、説明してくれ。どういうことかわからないぞ」

「すいません、ええっと、私には複数人に分かれる能力があって、こっちの世界には三人に分かれた状態で転生してきてバラバラで生活していたんですが、私の一人が吸収して元に戻るって言って、私を吸収しにやってきたんです!」

「えっと、別に分裂してたのが一人に戻るなら、別に問題はないんじゃないのか?」

 元に戻るだけで特に不都合はないように思えるが。

「元の世界でならそうなんですが、この世界だと合体することはできても分裂することはできなくて、私が吸収されたらもう二度と私として出てくることはできないんです……。合体した私の一部としてしか、生活できないんです」

「なるほどなぁ」

 つまり彼女は別れた状態で自我を持っているのだ。

 だから、二度と元に戻ることができない吸収されたくはないと。


 ピンポーン


 その時、インターホンが鳴った。

 まさか追ってか、このまま居留守を決め込むか、いや、それだとドアが破壊されるか?

「私です。いないと言ってください。吸収しに追ってきてると言っても所詮私ですから、強行突破はできません。居留守をするとここにいないことを確認できるまでマークされ続けると思います」

 確かに、吸収しようというから怪物のような追ってを想像していたが追ってきているのは彼女自身なのだ。

 彼女から受ける印象はあまり力の強い感じでもないし、強引に入られるような事もないだろう。

 そして、延々とこの辺を探してうろつかれるのも気持ちが悪い。

 普通に受け答えしていないことをわかってもらう方が話は早いだろう。

「じゃあ行ってくるよ」

 奥の部屋に隠れて貰って玄関に向かう。

 鍵を開けてドアを開けた瞬間に少女が飛び込んで来た。

「ここにいますね!」

 そういうと、すぐに家の奥に走って行く。

 さっき飛び込んできた少女と同じ顔で、それでいて少しだけアグレッシブな雰囲気で、そういえばさっきもこうして飛び込んで来たんだから同じように飛び込んでくるよなとか考えながら後を追う。

「あ、ごめいわくをおかけしました。帰りますね」

 そこにいた少女は一人で、家出少女の連れ戻す側と連れ戻される側両方の雰囲気を兼ね備えた礼をして、出て行った。

 それは短時間で見た彼女のふるまいそのもので、自我が失われてしまった様子は微塵も感じられず、守れはしなかったけど、その様子を見て別に守る必要はあんまりなかったんじゃないかなぁと思ってしまった。

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