第1560話:フテ・チエル~首落とし~

 夜道を歩いていると、道の真ん中に首が落ちている。

 確かに、この道だから何が起きても不思議でもないが、首かぁ……

 腑に落ちない違和感が発生する系の怪奇現象なら無視すれば済むことだからいいんだけど、物理的に何かがあるときは困る。

 質量がある怪異はただ突撃して来るだけでも痛いし、骨が折れることもある。

 しかもあれは首だ。

 首は体の一部にしては重いし硬いし、噛みつかれることもある。

 物理的にも危険なのだが、首は何よりも意思がわかりやすくあることがあるのが嫌だ。

「あの……」

 ほら、話しかけてきた!

 もう嫌だ、無視して通り過ぎたい。

「助けてくれませんか……」

 うわぁ、泣いてる。

 でも、よくある恨めし気な声と言うよりもただ困っているような声だ。

「どうしたんですか……!」

 もし怪異だったとしても、困ってる人を放っておくのは良心が痛んだ。

「私の体を探してもらっても、いいですか?」

 あぁ、これはアレだ首だけ晒し首にされて体がどこか別の場所で処分された怪異だ。

 逃げよう。

「あぁ! 待ってください、お化けじゃないですから! 困ってるんです、私、身体と首の接続が甘くって、すぐに体だけどっか行ってしまうんです」

「本当に怪異の類ではない?」

「ただの旅行者ですよぉ、助けてください。みんな私の姿見るだけで走って逃げて行ってしまうから声をかけられたのはあなただけなんですよぉ」

「あぁ……」

 確かに怪異の類ではないらしい。

 この通りはこういう、人の一部だけとか、気配とか、声とかの怪異が現れることで有名なので、この通りで首だけ転がっていたら普通逃げるものな。

 とりあえず探すために、彼女の首を抱えて移動することになるだろうが、首だけの彼女を持って帰ったらみんなどんな顔をするだろうか。

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