第1387話:ナキガネ・ハサミ~無くてもいいもの~

「あ、あれは無くてもよくない?」

 帰り道に何かを指してそう言っている人を見た。

 いったい何を指して無くてもいいなんてことを言ったのか。

 気になってその人がいなくなった後にその場所に立って眺めてみる。

 そこから見える景色には様々なものかま見え、いったい何を指して無くてもいいなんて言ったのか、まったくわからない。

 しかし、彼は何かを指して無くてもよくない? と発言したのは確かな話で、この景色の中には無くてもいいものが混じっているのだ。それも、わざわざ脚を止めて指を指してまで指摘したくなるものが……

 しばらく見ていたけれどどれを取っても有用なものばかりで無くてもいいものなんてものはどこにも見当たりはしなかった。

 いったい何を指して無くてもいい何て言ったのか……

 気になってこのままでは夜も眠れない、なんとしてでもこの景色の中から無くてもいいものを見つけ出さなければ。

 そこで突然ひらめいた。もしかしたら私は無意識的に無くてもいいものを視界から除外している可能性もある。

 なんたって無くてもいいものだ、それは存在感が薄くても仕方ない。

 もしこれが無い方がいいものだったとしたらそれはとても強い存在感を放つものなのだろうが、今見つけようとしているものは無くてもいいものだ。

 あっても困ることはないが、無くても困ることの無いようなもの、その程度の意味合いだろう。

 しかし、私には景色の中にそのようなものを見つけられない。

 それもすべてそれ自身の存在感の無さに起因する現象だったに違いない。

 うん、そうに違いない。

 帰って寝よ、この時間がなくてもよかったぐらいだったな。

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