第1354話:ウラベ・オリチカ~祈りの鐘~

「今鐘の音が聞こえたよな?」

 朝に鳴らなかった鐘の音が、今何もない上から聞こえてきた。

「何もないが、確かに聞こえた」

「じゃあ鐘は空に、見えない状態であるのかな」

「そう単純な話でもない気がするんだよなぁ」

「まぁ、見えないだけの鐘なんてすぐに見つかりそうなものだよな」

 今鳴ったのも不可解だ、ただ見えないだけで空にある程度の話では面白くない。

「たぶん、鳴るには条件があるんだ。それが今朝は無くて、今あった。それは何か」

「朝の状況がわからないんだからわかりようがないだろ」

「それはそうだ」

 勢いだけではやっぱりわからないよなぁ。

 まぁ仕方ないかと帰ることを提案しようかと思ったその時、第三者に声をかけられた。

「今鐘を鳴らしたのはあなた達ですか?」

 おっと、俺たち以外にも鐘を調べに来た奴がいたのか。

「いや、俺たちも今鳴った鐘に首傾げてるところさ」

「ああ、君は鐘について何か知らないか?」

 情報は共有しておこうということか、ヒライの考えそうなことだ。

「……しらばっくれる気か」

「ん?」

「私は見ていたぞ、貴様らが鐘を鳴らすところを! なぜ今鳴らした!」

 まてまて、確かに鐘が鳴った時上を眺めてはいたが、鳴らしてなど……

 もしかしてこいつ、鐘の鳴らし方を知っている?

「まてまて、鐘の鳴らし方を知っているのか? もし俺が鐘をならしてしまったとして、それは知らなかったからだ。教えてもらえさえすれば、二度と鐘を鳴らすことは無い」

「ほんとうか?」

「ああ、本当だとも」

「わかった。鐘を鳴らすにはここで祈りのポーズをとるだけでいい」

「祈りのポーズ、」

 それはもしかして、

「指を一本空へ向ける?」

「そうだ、知っているじゃないか」

「心当たりがあるのがそれだけだったからな」

 というか、鐘の鳴らし方を知っているこいつの正体はまさか……

「なんで今朝は鐘を鳴らさなかった?」

「ウラベ何を?」

 ヒライはわかっていないようだ。

「今朝は喪に服していた、先代が昨日息を引き取ったからな。それも知らないのか? お前ら見かけないがどこの奴らだ?」

 どうやら見えてきた、俺たちが朝を告げる鐘だと思っていた鐘は、彼女たちにとって、別の意味がある大事な鐘だったということか。

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