第1355話:リケラット・カンピエラ~不可視の~
「何を見ているんだい」
何もないところを覗き込んでじっとしている奴を見かけてどうしたものかと声をかける。
「……ネコ」
「そこにネコはいない」
何もない空間を見て何もない空間を撫でるんじゃない。
「見えない? ネコ、ほらかわいいよ?」
「いないものは見えない、やめなさい」
抱きかかえるような動きでこちらに空の手を出してくる。
いないものはいない。
「かわいいのに……」
良いものを共有しようとして拒否されたときのような拗ね方をする。
もしかしたら実際に彼女にとってはそうなのかもしれないが、私にはネコは見えない。
もしかしたら見えないだけでいるのかもしれない。
この辺だろうか、というところにあたりをつけて撫でるやさしさで手を伸ばす。
その手は空を切った。
やはりいないのでは……?
「そこにもネコいるの?」
彼女は今の空を切った手の動きに興味を持ったようだ。
「いないよ、失敗しただけ」
「ふぅん、そっちにもいるのかと思った」
ん、今の手が伸びた先は彼女にも見えていたはずだ。
だとしたら、見えないけれどネコはいるのかもしれないと思ったのだろうか。
いや、いない。
ネコはいない。
ここにネコはいないけど、彼女はネコがいると思い込んで見えないネコを見ているに違いない。
「ネコは……」
その時、彼女がこちらの足元を見ていた。
「いるかもしれない……」
それと同時に、何かが足の間をするりと抜けていく感触があった。
ネコだったのだろうか……
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