第1328話:グッチ・シシャロ~嘆きの谷~

「なんか謂れがあるの?」

「ただ風の音が嘆きの声に聞こえるだけです」

「ふぅん……無風ですが」

「はい、最近谷の端の方が崩れて風の流れが変わりまして、昔のような嘆き声の風の音は鳴らなくなりました」

「えぇ……」

「そういうわけで今回のツアーはこういった『意味ありげな名前が付いてるけど実際どういう理由でその名前なのかを聞くとがっかりする名所めぐり』となっております」

「正気か?」

「もちろん正気などございませんとも、もしかして一部でも正気であると期待しましたか?」

「いいや、正気で言ってるわけじゃなくて安心したよ」

「正気でないことを確認したところで次の場所へ向かいましょう」



「次は首吊り峠です」

「かつて処刑場だったとか?」

「いえ、昔は現地語で【曲がり峠イペナルパニア】という名だったのですが、別の世界出身の人が【首吊り坂イフェンラファニァ】と聞き間違え、そこから【首吊り坂】と【曲がり峠】がいい感じに混ざった上で共通語の【首吊り峠ファンクアガピス】に統合されて誰も由縁を知らない首吊り峠という呼び名で固定されてしまったんですよ」

「なんで知ってるの???」

「調べました、大変でしたが」

「正気ではない」

「正気であるはずがないでしょう」

「それはそうだけど、あまりにも正気では無さすぎる……」

「では次へ行きましょうか」

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