第1193話:フー・ホウモ~砲台~

 街の郊外に寂れた砲台が一つだけある。

 別にその向こうは何もない平原で、防衛拠点的に重要とかいらなくても問題は何もないという、不思議な場所にある砲台だ。

 そもそも、有史以来戦争があったという記録はない。

 しかし、そこには砲台があり、手入れもされずに放置され続けている。


「絶対におかしいですよ」

「何が?」

「郊外の砲台です、あれどこに撃つんですか」

「ああ、あれね。この街の不思議の一つだよねぇ、実に不思議だ」

「誰も調べようとしてないんですよね、あれについて書いた記事も書籍も一個も無くて、考察の一片すら見つからないんですよ」

「まぁ昔からあるからねぇ、不思議不思議とは言っても昔からありすぎると生活の一片になってしまって誰も興味を示さない。時折変わり者が興味を示して調べようとするがあまり他人からの協力が得られない、あれはその程度の不思議なものなのさ」

「納得がいきません。今度の休みに先輩も一緒に調べに行きましょうよ」

「いいよ。私はあの砲台に興味はないが、君の興味に興味がある」

「砲台に興味を持ってくださいよ、そうじゃないと見えないものもあるはずですし」

「無い方が見えるものもあるさ、さて集合時間はいつにする?」




「先輩結構早いですね、楽しみでした?」

「なぁに、君が逸って先に行ってしまうんじゃないかなと思ってさ、待ち合わせ場所に置手紙を置くレトロスタイルでさ」

「そんなことないですよ、せめて連絡は電話でします」

「そうかい、じゃあ砲台に行こうか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る