第1192話:シウルエ・ハインブ~パズル~

「これ、おかしくないですか?」

「あん? 何もおかしくないだろうが。さっさと蓋閉じろ、行くぞ」

「あ、はい」

 気になったことを否定され、ぱっと何が気になったのかも忘れてふたを閉めて助手席に座った。

「それで、何が気になったんだよ」

 始動をかけながら先輩が聞いてくる。

「なんですか、問題ないって確認せずに言ったんですか? もう忘れちゃいましたよ」

「その程度で忘れてしまうようじゃ、特に気にするほどでもなさそうだ」

「そうですかねぇ」

「そういうもんだ、まぁ何かあったら責任は俺が取ってやるから」

「それなら、まぁ」

 良くはないが、再確認するように説得もできないだろう。

 仕方ない。


「さて、納品も終わったし今日は飲んで帰ろう」

「いいですね」

 物はすでに僕らの手を離れた。

 今更気にしたところで仕方ない。


「それでよ、結局気になっていたってことは思い出せたのか?」

 帰りに寄った飲み屋の座敷で先輩が聞いてくる。

「あー、大丈夫ですよ、きっと僕の気にしすぎですから」

「そうか?」

「はい、何度も積む前にチェックしてますから、さすがに展示するパズルのピースの配置が変わってるなんてことはないですよ」

「そりゃあ……、無いだろうなぁ。パズルったって絵は絵だ。それぞれが意思を持って動くみたいなことはないだろうなぁ」

「ですよね、たとえ遺跡から発掘されたパズルだからって、普通のパズルですよね」

「ああ、心配することないさ。そうだ、明日休みだろ? 展示されているところ見に行こうぜ」

「そうですね」


 翌日、博物館でのガラスケースの中にあったのは、昨日トラックで見たのとは違う図柄のパズル。

「先輩、こうでしたっけ?」

「うーむ、たぶん最初からこうだった! 俺たちの不手際ではない!」

 言い切る、こういうところが強いんだ。

 まぁ、実際納品時の運転は短距離だし荒くもない、パズルが崩れるようなことはなかった。

 というか、博物館の人は気づいていないみたいだし、いいか。

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