第1169話:ファイデア:ガヨウ~塔の上の窓~

「おや、お客さんとは珍しい」

 高い高い塔の上、すでに廃墟であるとされていた入口の無い塔の上までよじ登り、唯一ある窓に足を掛けた時、中からそう声をかけられた。

 物腰柔らかそうな妙齢の女性、塔の上のこの一室に住んでいるのだろうか。

「残念だけど、僕はお客さんじゃあない」

「ああ知っているさ、探検家気取りの盗掘者だろう」

「耳に痛い表現だけど、概ねそういう感じ。でも、どうやって今まで誰にも知られずにここに? 結構いろいろな人がこの塔に来ているはずだけど」

「窓には結界が張ってある、地からここまで一度も体を塔から離すことなく身一つで登った者以外には別の窓が現れる仕掛けだ」

「なるほどね、僕は駆け出しで愚直によじ登ったからこの窓にたどり着いたと。用心深い魔女様なことで」

「いや? 私は魔女じゃない、どちらかと言えば囚われの姫と言う奴さ」

「へぇ、魔女は留守かな?」

「そうなんだよ。ここ数年出かけたまま帰ってこない、おかげで私は外に出ることもできず、この小さな窓から外を眺め続ける日々と言うわけだ」

「外に出ようと思ったことは?」

「出たいと思ったことならある、しかしこんな高い塔をどうやって降りる? 過去には君のように身一つでよじ登ってきたものもいた、しかしまぁさすがに体一つで登ることができたとしても、人一人抱えて降りるというのはどうにも難しいものらしい」

「誰一人言い出しすらしなかったと」

「そういうこと、君は察しがいい上に無遠慮だな。今までにないタイプだ」

「別に僕は君を連れ出そうとか、そういうことを考えがあるわけじゃないからね」

「ほぉ、と言うと?」

「そうだな、状況は君と近いと言ってもいい、まぁ、つまるところ、僕もこの塔を降りられる自信がない」

「まるでネコだな」深いため息とともにそう返された。

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