第1135話:ベイバ・クロスチ~噂の祠~

「知ってる? コラクチ通りの噂」

「知ってる知ってる、通りの裏にある祠にお参りすると願いが叶うんだよね」

「え? 攫われちゃうんじゃなかったっけ?」

「一人だと攫われて、二人以上だと願いが叶うって聞いたことある」


 私が治安をしているこの町でそんな噂が流れ始めたのはいつだっただろうか。

 私が知っている限りではコラクチ通りに祠なんて無い、

 噂にあるような通りの裏みたいなものも知っている限りでは無い、

 だから、今私の目の前に空いている路地裏への入り口はきっと幻かなにかなのだろう。

 しかし、噂の正体を確かめないわけにもいかず、その路地裏に足を踏み入れる。


「祠というのはこれか……?」

 路地裏にあったのは祠と言うにはみすぼらしい、廃材を組んでそれらしくしただけの物だ。

 これではご利益も祟りもあるまい、そう思って踵を返そうとしたとき気付く。

 無いはずの路地裏に、噂通り祠があった。

 つまり、それは噂自体も本物なのではないか?

 無いはずの路地裏だ、次にいつ出会えるかもわからない。

 噂の検証だけでもしておくべきなのではないだろうか?

 確か願いが叶うとか、誘拐されるとかそういう内容ウだったはずだ。

 願いが叶うのはいいが、誘拐されるというのはよろしくない。

 犯人をとっちめておくのが治安のためだろう。

 幸い今私は一人だ、条件は満たしている。

 お参りするんだったよな、お参り……?

 この祠の文化形態がわからん、祠へのお参りの仕方って結構文化ごとにさまざまだし、まぁいいか、こういうのは気持ちが大事なんだ、祀られているのが何であれ、作法にまでとやかく言うまい。

 足をかけて、とまず足をかけたとろで祠が崩れた。

 うーん、やっぱり祠と言うにはぼろっちいと思ったんだよな。


 しばらくすると噂は聞かなくなった。

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