第1133話:フェイトウ・ブライオ~己の善性~

「あの人は悪い人ですよ」

 友人と別れた直後、知らない人に話しかけられた。

「なぜ?」

「なぜって、見ててわからないんですか? 意図して他者を傷つける発言を振りまき、自分の機嫌を他者に取らせ、偉ぶる。これで悪い人じゃないわけないでしょう!」

 まぁ、思い返してみれば彼のふるまいは他者から見ればそういう風に見えるかな。

「まぁ、そうだね。君の主観を通して聞く彼は一般的に言う悪い人のようだ」

 とは言っても、友人を悪く言われるのは腹立たしい。

「そうだろう?」

「しかし、私の知ってる彼はそうではない」

「なんです、彼は実は善人だとでも言うのですか?」

「いいや、君が言う通りの人間だと思うよ。悪性が表に出やすい、そういう奴だ」

「でしょう?」

 この、いかにも僕が正しいでしょうという顔が気に食わない。

「時に君は、善性というものをどう考える? 悪を行わないことかい?」

「そうですね、他者を害せず、思いやり、労る、そういう者が善人だと思いますよ」

「そうだね、私もそれには異論はない。しかし君の話だと君も悪人のようだが?」

「なぜです? 僕が悪人だなんてことがあるわけないじゃないですか」

 思った通りのタイプ、自分が善人であるので悪人を非難する権利があると思っている。

 そんなわけないのにな、善人と言うのは他人に施し以外与えない、敵意が湧いても身に封じるか誰もいないところに吐き出す、そういう者だと私は思う。

「そうかい? さっきまでの君は私の友人を非難する、いかにも不機嫌そうにふるまって私に気を使うよう促した。そして自分は善人だから、他者を悪人だと定める権利があるかのようだったよ。悪人の方がまだ優しいぐらいにな」

「そんな……」

「人は自身を善性だと思い込むものだ、自分の他人の悪性をとやかく言うぐらいなら、自身の悪性を認めて飲み込んでおけ」

 論破なんてしても大して意味はないが、少しだけ溜飲は下ったかな……。

 まったく、私の悪性も結構なものだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る