第1114話:イテイチ・フゥカ~夢の中ではスーパーヒーロー~

 朝目が覚める、手を見てぐっぱーぐっぱーと数回握る。

 はぁ、とどうしようもない無力感からため息が出た。

 身支度を整え家を出る、道すがらいつも見る夢を反芻する。

 夢の中での俺はスーパーヒーローだ。

 誰かが困っていると颯爽と現れて、問題を解決して、去る。

 カードを隙間に落とした人がいればメキメキとこじ開けるし、暴漢に襲われてる人がいればすっと割り込んでちょいとひねる。

 街に怪獣が現れたら飛んで行ってドカーンだ。

 まさにみんなのあこがれ、スーパーヒーローそのものだ。

 しかし現実の俺にはそんなことできない。

 ヘタレやろうの小心者なんだ。


 ひったくりだ。

 見える遠くですれ違いざまに荷物を抜き取って走り出す男が見えた。

 夢の中の俺なら、走り出す、というか、もう今頃はひったくりの首根っこ掴んでつるしている。

 今の俺は遠くからそれを見ている、ひったくりは走ってどこかへ行ってしまう、被害者は追いかけようとして足をもつれさせて転んだ、俺は見ていただけだ、不干渉、向こうの誰も俺には気付いていない。

 もう、ひったくりは見えなくなった。

 これが夢の中なら、夢の中なら、目が覚めたら何もすべて消える世界での出来事だったら、誰にも恨まれないから、何の責任も負わなくていいから、踏み出せるのに。



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