第1107話:トウフォウ・イトウロ~無彩~
「ようこそ、この町は色を持たない町。どうか染め上げることの無いようお願いします」
町に入ったところにある窓口で無表情で肌の真っ白な人にそう言われた。
確かに町の中はまったく色が無い、白か黒、もしくはその中間のグレーだ。
確かに無彩色の町、建物植物看板人動物すべてが白黒、それ以外にも歩く人たちの表情は無表情で、少し不気味な印象を受ける。
「不思議な町だなぁ」
確かにこの町には色という色が無い。
白や黒だって立派な色だって言われるかもしれないが、彩りが一切ないのだ。
ふと、不安になって自分の体を見下ろしてみると、ちゃんと色はあって、安心する。
「ちょっとよろしいですか」
道に迷ってしまって仕方なくその辺を歩いている人に尋ねる。
どの人も同じように無表情であるから、あの人は話しかけやすい、あの人は話しかけにくいみたいなことは無くて助かる。
無表情であったから、話しかけても無視されてしまうのではないかと少し考えたが、無表情のまま快く対応してくれた。
「この町の人は皆無表情ですね」
案内してもらっている間、話題は無いかと考えて口を出た。
失礼なことを言ってしまっただろうか、そんなことを思ったけど返事が返ってきた。
「そうですね、この町は色を持たない町ですので、人も色を持つことはしないのです」
一瞬、肌が青くなったように見えたがすぐにまた白く何も感じられない色に戻る。
気のせいかな……
「感情には色がありますので、私達は感情を持ちません。そのためこうして白く、無表情と言われる顔をしているのです」
「なるほど、そういうことでしたか。失礼なことを聞いてしまって申し訳ない」
「別に、気にしていませんよ」
感情に色があるか……、とするともしかしてさっきの一瞬青く見えたのは気を悪くしていたのかもしれない。
感情を煽るようなことを言えば、彼女のいろんな表情もとい色を見ることができるかもしれない。
「あの、」
「なんでしょう」
ふと、町の入り口で言われた、ことを思い出した。
「いえ、何でもないです。案内ありがとうございました」
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