第1092話:ティーヘイ・カンネツ~鏡の向こう~
ある朝、身支度をするために鏡の前に立ったら
「やぁ、調子はどうだい?」
鏡の中の私に話しかけられた。
「勝手に動かないで、ちゃんと私に追従して」
勝手に表情を変えられたりしては困る。
「なんだ、驚かないんだ。もしかして、こういう経験あるのかい?」
「喋らないでと言っているでしょう、今リップ塗ってるんだから。メイク全部終わってからならどれだけ動いても構わないから」
「そんなこと言わないでくれよ、どうせメイクが済んだら鏡の前から立ち去るんだろう?」
「それはそう、出かける用事があるからメイクしてるのだもの、当然でしょう」
「じゃあ黙らない、鏡の前に居続けさせてやる」
「そう、じゃあ別の鏡を使うことにするわね。じゃあ」
「あいやいやいや、待って、ちょっと待ってくれよ、しゃべらないし動かないからさ、少しだけ話を聞いてくれよ」
必死に引き留められた、そこまでして聞いてほしい話があるのか。
「口周りが終わってからなら、身振りは無しで」
「ありがとよ」
黙って普通の鏡のようになったので、メイクを継続する、途中の口周りは外して。
「まだ駄目か?」
「まだ駄目よ」
一通り終わらせてから最後に途中で置いていたリップを塗りなおしてメイク終わる。
「終わったけど、出かけるまでの間なら話を聞いてあげてもいいわ。あと5分だけね」
「そりゃあないぜ」
「なら帰ってきてから聞いてあげるわ。じゃあね」
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